(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志
前回の「統合医療とは」で述べたように、現代人の病気の多くはさまざまな要因で発症・重症化するので、西洋医学とセルフケアだけでは対処しきれません。統合医療はそのすべてを解決できないまでも、現状を改善する可能性はあると思います。統合医療には医療モデルと社会モデルがありますが、今回は医療モデルの具体的な効果についてお話しします。
1.生活習慣病に対する医療モデルの重要性
高血圧症や糖尿病、脂質異常症と診断されて、生活習慣の改善が必要だと分かっていても、なかなか実行できない人が少なくありません。西洋医学の薬は確かに効果がありますし、漢方薬や健康食品で改善することもあるでしょう。しかし、生活習慣を改善しなければ病気は進行し、薬の量は増えていきます。これらの病気に関しては診療報酬の改定が行われ、2024年6月から患者とかかりつけ医が相談して生活習慣の改善目標を具体的に決めることになりました(生活習慣病管理料)。生活習慣の改善が不可欠なことがはっきりしたからです。
「塩分を控える」「揚げ物やお菓子類は食べ過ぎない」「野菜多めのバランスの良い食事を」「お酒は適量に」「一日30分程度の運動を」などの言葉を聞き流すのではなく、医療関係者や周囲の人たちの助けを借りて、どうしたら改善できるかを具体的に考え、少しずつでも実行することが大切です(図1)。
本コラム13で紹介した高血圧症に対する岡田式健康法の効果の研究では、東京療院に通院する患者さんの3割で降圧薬を減量・中止できました。サポートを受けながら健康法を継続したら、安全に薬を減らせたわけで、多少のリスクを覚悟で減量したのではありません。この研究はそこに大きな意味を持つのです。
詳しく知りたい方は(一財)MOA健康科学センター研究報告集(2017;21:59-68)に転載した論文(原著は日本統合医療学会誌2017;10:186-195に掲載)をお読みください。
2.治療法がない病気に対する医療モデルの重要性
西洋医学は、病気に対する治療法がある場合は大きな力を発揮します。一方で国が定めた「指定難病」をはじめ、有効な治療法がない病気には、症状を和らげる治療(対症療法)を行いますが、その効果は限られています。
対症療法と岡田式浄化療法を併用した時の効果については、本コラム11の鎌状赤血球貧血症(Altern Ther Health Med 2014;20(1):20-26)と、本コラム12の線維筋痛症(Altern Ther Health Med 2017;23:e7/英文)で紹介しました。浄化療法を継続した患者さんでは、薬の使用量が減り、鎌状赤血球貧血症では入院回数も少なくなり、死亡率まで改善したのです(図2)。
さまざまな補完・伝統医療や健康法が症状を改善したという報告はたくさんあります。ただ、各種ハーブや健康食品の中には、西洋医学の薬と併用すると危険なものがあるので、使用前に必ず主治医の先生にご相談ください。その意味では、岡田式健康法はまず副作用の危険はなく、安心です。
3.全人的医療に対する医療モデルの重要性
主治医の先生から「根本的な治療法はないので、あとは症状を和らげる治療にしましょう」と言われたら、私も含めて、ほとんどの人は平常心ではいられないでしょう。しかし、体に大きな負担を強いる治療を続けるよりも、症状を和らげる各種ケアの方が、残りの人生を自分らしく有意義に過ごせる可能性が高いのです。数カ月の命と言われたのに、数年間も症状が安定していた人は少なくありません。また、鎮痛薬で痛みが和らいでも特別な感情は湧きませんが、浄化療法で痛みが和らいだ場合は、施術してくれた人に感謝し、人知を超えた大いなる力を感じると思うのです。
京都大学の広井良典教授は、人生の最後を「どこで」「どのように」過ごすかよりも、「だれと」過ごすかが重要だと述べておられます。ほかの補完・伝統医療にも言えることだと思いますが、心身のケアだけでなくスピリチュアルケアも含めた全人的なサポートは、浄化療法の施術資格を持つ人ができる最大の贈り物と言えるでしょう。統合医療の医療モデルとしての岡田式健康法の重要性は、今後ますます高まると思います。
次回は、統合医療の社会モデルの効果についてお話しします。どうぞお楽しみに。
【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。