対談 上智大学グリーフケア研究所 島薗 進 所長、一般財団法人MOA健康科学センター 鈴木 清志 理事長

命の尊さと支え合いの意味

 日本は、他の先進諸国に先駆けて超高齢社会を迎えた。平均寿命は伸び続ける一方で、健康で活動的に生活できる期間を示す健康寿命との差は縮まっていない。増え続ける医療費が、私たちの生活に大きな影響を及ぼしている。
 2018年11月には、東京国際フォーラムにおいて「これからの医療とまちづくりシンポジウム」が開催*される。シンポジストの一人である上智大学グリーフケア研究所の島薗進所長と、主催者の(一財)MOA健康科学センターの鈴木清志理事長に、こうした時代に生きることの意味について、スピリチュアルな視点を交えながら語り合っていただいた。

 *『楽園』掲載当時

鈴木 今、医療に対する不信感を持つ人が増えていると感じます。現代人は重い病気になった時に、何を頼りにつらい治療に耐え、生き、そして死んでいくのでしょうか。これからの医療は、この大きな命題に対してどう応えるのかが問われていると思います。
 先生は今後の医療のあるべき姿を、どのようにお考えですか。

島薗 私たちが若い頃は、科学全般に対する信頼が厚く、それは医学の分野においてもそうで、将来はたいていの病気を治すことができる時代になると思っていました。たとえば、1950年代頃には不治の病と言われていた「がん」は、その治癒率が飛躍的に伸びましたし、がんとどう向き合えばいいのかも、かなり分かってきました。今では、がんはどちらかといえば良い病気だと感じている人が少なくないのではないでしょうか。また、生活習慣病と付き合いながら生きていく時代でもあります。
 そうした意味で、「キュアからケアに」という言葉に象徴されるように、これからの医療は、病気と共に生きる患者さんと一緒に歩く、援助していく、そういうものではないかと思っています。

鈴木 治すだけの医療ではなく、病気と上手に付き合うことを支える医療が求められているのですね。そうした時代だからこそ、一人の患者さんを、スピリチュアルまで含めて全人的に診る医療が必要だと思います。実際にそうした医療への欲求が高まっていると感じていますが、現在の医療体制では、その求めに十分に応じられないのも事実です。

島薗 臨床現場で実際に患者さんを診療している人と、研究室でシャーレや顕微鏡を相手にしている人では、そのあたりの感覚は違うのかもしれませんね。新しい治療法を見つけて、病に苦しんでいる患者さんを助ける。それが医療だと信じて、それだけを貫いていく人にとっては、治すことだけが医療ではないという面、つまり、生きているとはどういうことなのか、命の尊さとはどういうことなのか、そうした重要な面が見えなくなってしまう恐れがあります。

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