第18回 統合医療とは

(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志

西洋医学は日々進歩しており、次々と新たな治療法が開発されています。一方、健康維持や疾病予防には適切な食事・運動・休養などのセルフケアが大切です。

 

しかし、現代人は長時間で不規則な勤務形態やストレスなどで生活習慣を乱すことが多く、セルフケアもままなりません。高齢化や環境の変化などによって、がんや動脈硬化に伴う病気が増えています。そのため、西洋医学とセルフケアだけでは対処しきれないのが実情です。

 

1.世界の統合医療の現状

1990年代から各種健康法を含む補完医療や伝統医療が注目されるようになり、米国を中心にその安全性・有効性に関する研究が進みました。2000年頃には、全人的な医療としての統合医療の理念が確立されました。具体的には、患者さんに対して、西洋医学と補完・伝統医療の中からベストの治療法を選んで提供する医療です。西洋医学の課題や疾病構造の変化、人々の価値観の多様化などと相まって、統合医療の理念が世界中に広まったのです。

 

統合医療をどのように定義し、実際の医療現場にどのように取り入れるかは、国によってかなり異なります。その国がどんな保険医療制度を採用しているのか、そしてその国独自の伝統医療があるのかなどによって、大きく異なるのです。

 

たとえば米国では、公的な医療保険は高齢者・障がい者や低所得者などに限られ、大部分の国民は民間保険に入ることになります。西洋医学の治療が高額なこともあって、多くの人が補完・伝統医療を利用しています。

 

ヨーロッパ諸国は、鍼(はり)などは保険で受けられる国が多いので、大学病院などでも統合医療を取り入れて研究しています。中国は、中国伝統医学と西洋医学との組み合わせが統合医療だと考える傾向が強く、他のアジア諸国もその国の伝統医療を重視します。

 

2.日本の統合医療の独自性

日本では、東京大学名誉教授の故渥美和彦先生が中心となって、2000年に日本統合医療学会が設立されました。そして米国のアンドルー・ワイル教授らの概念を参考に、統合医療を次のように定義しています。

 

「統合医療は医療の受け手である「人」を中心とした医療システムである。近代西洋医学に基づいた従来の医療の枠を超えて、「人」の生老病死に関わり、種々の相補(補完)・代替医療を加味し、生きていくために不可欠な「衣・食・住」を基盤として、さらには自然環境や経済社会をも包含する医療システムである。」

 

つまり日本では、統合医療は補完・伝統医療の単なる組み合わせではなく、それ以上の広がりと意味を持ちます。こうした日本統合医療学会の動きに合わせて、2013年に発足した自由民主党国会議員による統合医療推進議員連盟でも、図1に示すように、

 

統合医療には「医療モデル」と「社会モデル」があり、それらが互いに補い合って健康長寿、持続可能な共助の構築、医療費の適正化を目ざす。

 

としています。諸外国における統合医療の概念は医療モデルだけなのに対して、日本では社会モデルを定義して国や自治体の行政と一緒に統合医療を推進しようとしている点が画期的です。

 

3.統合医療のキーワード

統合医療による健康長寿と、それを実現できるまちづくりにとって、重要なキーワードは何でしょうか。

 


図2に示すように、医療モデルでは「自然治癒力」です。病気からの回復の良しあしは自然治癒力に左右されますが、西洋医学には自然治癒力を高める方法はなく、岡田式健康法などの各種健康法を含む補完・伝統医療にこそ、その力があると考えます。

 

社会モデルのキーワードは「絆」です。絆の強いコミュニティでは、健康寿命が長くて幸福度が高く、医療費が抑えられて経済が発展するといった傾向が見られます。ですから国や自治体も、統合医療の社会モデルだと意識していなくても、実質的にはその定義に沿った政策を打ち出しているのです。

 

次回は、統合医療は実際にどんな効果があるのかをお話しします。どうぞお楽しみに。

【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。

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