医師・野菜ソムリエ上級プロ 宮田 恵 さん

野菜を食べて人も社会も健康に

 生活習慣病患者の増加に伴い野菜の摂取が推奨されているが、日本人の年間摂取量は20年前に比べ、1人当たり10㎏も減っているという。多忙な人が増え、調理の手間が敬遠されるだけでなく、肉や魚に比べ値上がり率が高いといった社会的要因もあるとされている。
 宮田恵医師は「医食農が連携すれば、人も社会ももっと健康になれる」と語る。全国で140人ほどしかいない「野菜ソムリエ上級プロ」の資格も持ち、診療の傍ら各地で講演会や健康教室、食育活動などを行っている。野菜から広がる人と社会の健康について教えていただいた。

── 野菜で、そんなにもはっきりと体調が変わるものでしょうか。
 私は整形外科クリニックに勤務しており、膝や腰、肩などの痛みを訴える高齢の方を多く診察しています。加齢による関節痛やしびれなどは、若い人のけがと違って動かしていかないと筋肉が萎縮して改善されません。ところがお話を聞くと、買い物や調理に支障を来すことに加え、ひどい痛みが原因で食が細くなり、動くことがおっくうになっている人も多いのです。その状態でいくら投薬やリハビリを重ねても、なかなか効果が得られません。
 患者さんにもまず、自然治癒力を働かせるために少量でもタンパク質も含めたバランスの良い食事を、できれば野菜をたくさん取りましょう、そして体を動かしましょうと話しています。
 主食や動物性食品には適量がありますが、病気治療のための食事制限やアレルギー、胃腸機能低下、極端な偏食といった場合を除けば、野菜に食べ過ぎということはまずありません。むしろ、全体を整える力があるのでどんどん食べてと、自信を持ってお薦めできます。

── 全身の状態が整っていけば体を動かしやすく、リハビリの効果などもアップするのですね。
 そうなのです。野菜は薬と違って、効果を実感するまでに少し時間がかかります。個人差はありますが、野菜を今までより量も種類もたくさん食べることを1カ月続けてみると、体調の変化を実感する方が多いようです。食べ続けてもらえるような工夫が、伝える側にも必要だと考えています。
 産業医として、働く世代の人たちにも接していますが、忙しい中で食事を理想的なものに整えていくのはそう簡単ではありませんよね。特に男性の中には、野菜をおいしいと思わないという人が結構多いのです。食材はかんで細胞壁が壊れることでそれぞれの味がしてくるので、早食いでは本当の味に気付けません。野菜は種類が豊富なだけに味わいも多様で、食感や香り、色合いなど、他にも楽しむ要素が盛りだくさん。それを味わわないなんてもったいない、そんな話をすると「野菜ってそんなにおいしいの?」と興味を持ち始める人もいます。
 ところがコンビニのサラダやカット野菜は、調理工程でおいしさの成分が少なくなってしまい、ドレッシングの味で食べているような状態。野菜のおいしさを体感できるチャンスがなかなかないのが残念ではありますが。
 野菜は私たちの体にとって大切な栄養成分をさまざまに含んでいて、それらが複合的、多面的に作用し体は徐々に整っていきます。

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