(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志
本コラム19では、生活習慣病やいわゆる難病に対する統合医療の医療モデルの意義をお話ししました。今回は、もう一つの柱である社会モデルについてお話しします。本コラム18で、社会モデルは日本独自の概念だと述べましたが、なぜ諸外国に先駆けて日本で社会モデルが定義されたのでしょうか。また、社会モデルは健康とどう関わるのでしょうか。
1.日本で社会モデルの概念が生まれた経緯
これには日本の保険医療と、くり返す大災害での経験が関係しています。日本の国民皆保険は優れた制度ですが、保険で認めていない治療法を西洋医学と組み合わせることはできません(混合診療の禁止)。日本で統合医療が一般化しないのは、この点が大きいと思います。
大災害は人々の心に大きな傷跡を残し、立ち直るのに時間がかかります。さまざまな種類の補完医療は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に有効だったことが世界中から報告されています。補完医療自体の効果に加えて、その多くは相手の話を聞きながら時間をかけて施術するので、施術者の思いやりの心も彼らを癒すのだと思います。
互いに支え合うコミュニティでは、病気になりにくく、健康寿命が長く、幸福度も高いことが世界的に知られています。こうした事実を踏まえて、(一社)日本統合医療学会と自民党統合医療推進議員連盟は会合を重ねて、互いに助け合うコミュニティの重要性を認識し、それを知らせるために統合医療の社会モデルを定義したのです。
2.健康における社会モデルの意義
夫婦の絆の重要性については、心臓病の治療を受けた人たちの中で、独身者・離婚者は同居夫婦に比べて死亡率が3倍も高かったという驚くべき報告があります。データはないものの、夫婦仲が良ければさらに健康でいられると思います。食事も運動も健康の維持に不可欠ですが、みんなで一緒に食べると、特に男性ではうつ病になるリスクが半分になるそうです。また、みんなで運動すると要介護状態になるリスクが減るとの報告もあります。
町内会や趣味の会などに参加している人は、認知症のリスクが4分の3になり、役員を引き受けるとリスクが半分になるそうです。結局社会との色々な絆が重要で、「配偶者がいる」「同居家族の支援」「友人との交流」「地域のグループ活動に参加」「働いている」の全てに当てはまる人は、認知症になるリスクが半分になるとの報告もあります(図1)。
以上から、認知症の予防には以下のことが大切です。まず高血圧症や糖尿病などの生活習慣病にならないように気をつけ、なった場合はそのコントロールに心がけましょう。その上で、さまざまな種類の食品を誰かと一緒に食べ、汗ばむ程度の運動を誰かと一緒にやるのです。地域のコミュニティにも参加し、役員を引き受けるとさらに効果的です(図2)。社会モデルは、認知症以外の病気の予防や改善にも役立つことが分かってきており、国際学会で講演した際は大きな反響がありました。
3.社会モデルとしてのMOA活動の意義
MOA活動は統合医療の社会モデルだと言えます。その理由は、岡田式健康法を通して互いの生き方を支え合うコミュニティづくり、まちづくりに取り組んでいるからです。そうした活動が評価されて、東京療院は日本統合医療学会から、統合医療の医療モデルと社会モデルの両方の認定施設となっており、これは全国でも東京療院だけです。
MOA活動は健康に役立つのでしょうか。それを調べるために、東京大学の酒谷薫特任研究員(前特任教授)と共同で、MOA活動が認知症の予防につながるかどうかの研究を始めました。健診データと簡単な質問票に答えることで、どの程度認知症になりやすいかを判定します。興味のある方は、東京療院にお尋ねください。どのような結果が出るか、私も楽しみです。
次回は、(一社)MOAインターナショナルが取り組んでいる「医療におけるケア」の重要性をお話しします。どうぞお楽しみに。
【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。