東京工業大学 上田紀行副学長(後編)

自分を知る大切さとこれからの生き方(後編)

東京工業大学 上田紀行副学長 新型コロナウイルス感染症は、パンデミックとなって3年目に突入した。いまだその猛威はとどまるところを知らず、感染により命を失う人も増え、また感染症の症状が治まってもさまざまな後遺症に悩まされている人も少なくない。加えて、この2年間、世界中の多くの人が、自分や家族への感染、仕事や収入、自粛による生活の変化などに対する大きな不安を抱えながら、先の見えない毎日を過ごしている。
 『生きる意味』の著者であり、文化人類学者の上田紀行東京工業大学副学長に、こうした世界レベルの危機を乗り越え、ウィズコロナ、アフターコロナ時代をどう生きていけばよいのかについて話を伺った。

前編から続く)


 

人生を掘り起こし「生命の輝き」を発見

──「前編」では、自分自身のかけがえのなさを発見することが大切だというお話でした。そのかけがえのなさを発見するためにはどうすればよいでしょうか。

 

 自分自身のかけがえのなさへの気付き、それは人生を掘り起こすことから始まります。表面に見えている自分の下には何が隠されているでしょうか。他の人が知らない、自分に関する出来事や秘密を自分は知っています。しかし、その出来事が人生でどんな意味を持っているのかを知っているでしょうか。特に、病気のようなネガティブに見える出来事は、できるだけ早く通過したい、忘れてしまいたいと思いがちですが、この一見ネガティブに見えることこそ、自分や周囲の人たちのかけがえのなさを発見する大きなチャンスでもあるのです。病気になったり、生き方や人間関係に悩んだり、子どもが非行に走ったり引きこもって家庭崩壊の危機に直面したりと、そういった問題に対処している中で、自分にとって何が大切なのかが分かってくることが結構多いのです。一見ネガティブに見える挫折や苦しみは、神様があなたのために掘ってくれた穴ぼこです。その穴に落ちることで自分が見え、人生が見えていくのです。つまり、穴の中でもがきながら、私たちは人生の宝に出合うのです。

 

 そうはいっても、悩み苦しんでいる自分自身と向き合うというのは、なかなか一人ではできません。そこで大切なのが信頼できる仲間を得るということです。仲間と語り合い、助け合うことで、新たな自分の生きる意味を見つけていくことがとても重要になると思います。

──つらく苦しい出来事を通して、心が浄化されて、生きる意味という人生の宝を発見することが大切なのですね。

 

 もう一つの方法は、自分がわくわくしたり、生き生きしたりするものを見つけるということです。何かを通して「生きてきて良かったな」と思える実感を持っている人は、逆境にあってもすごく強いです。それは、絵を描くことでも、歌舞伎を見に行くことでも、何かのサークルに入って、みんなとお茶を飲みながら楽しい話をすることでも、ボランティア活動でおじいちゃん、おばあちゃんのお世話をすることでも、何でもいいのです。そこに、生きている実感がある人は、それで一銭ももうかっていなくても、すごく幸せ、幸福者です。自分の内側からわくわくするものを見つけるということは「生命の輝き」を実感することでもあり、とても大切なことです。

 

 さらに言えば、自分が楽しいということだけでなくて、人が喜ぶことにわくわくしている人は、相当に強いです。ある宗教者の言葉に「その自分の喜びだけを喜びとする人間は不幸なるかな。なぜならあなたの喜びは有限であると。人の喜び、あるいは人の幸せをわが喜びとすることができる人間の幸いなるかな。なぜなら、あなたの喜びは無限である」とあります。すごい言葉だと思います。

 

 先ほど人からの評価をベースにした自己信頼感のお話をしましたが、どのくらいお金がもうかったかというようなことを最大の喜びとしている人間は、他の人がもうかっていると、不平不満やねたみを抱きます。結局、他人との比較の上での喜びですから、そこに弱さが出てきます。しかし、「私のこの一言で誰かが明るい顔になって良かったな」と、自分がやったことが何かに貢献できたこととか、人が喜んでいることが大きな喜びだと実感できることは、内面的に湧き上がる喜びであり、比較対象があるわけではないので、すごく強いです。

 

 それは、ある種の一点豪華主義です。その一点さえ満たされていれば自分は幸せだという、そのポイントを自分で定めることが重要だと思うのです。それ以外のところで後ろ指を指されても「そこは力抜いてるところですから」とか、「そこまで気張って一番になろうと思っていませんから」というように割り切ることが重要です。

 

 結局、自分の人生は、意識するとせざるとにかかわらず、自らが選択しているのです。そして、一つのものを選択すれば他のものは選択できないということです。もちろん何かを選択するためには、自分の個性や特徴、好き嫌いなどを、しっかり自分の中で認識しなければなりません。これも先ほど述べたように、自分の人生を掘り起こす中で確認できると思います。

 

 でも、それが見つからないという人は、一歩踏み出して「わくわくしている人のそばにいること」「情熱を持っている人と一緒にいる時間を増やすこと」です。夢のある人の周りには、夢のある人が集まってきます。そうした場では、一人が夢を語ることによって他の人の夢を刺激する、言うならば「生命の輝き」が伝染するというか、共振し合って大きなエネルギーを生むのです。

 

 『スリランカの悪魔祓(ばら)い』で書いたことでもあるのですが「生命の輝き」は、つながりが切れた時に輝きを失い、つながりを取り戻した時に輝いていくものです。そのつながりというのも、同調圧力的なつながりではなくて、より深いレベルにあるものです。「生命の輝き」は言葉を変えれば「魂の覚醒」とでも言えるのではないでしょうか。

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