東京工業大学 上田紀行副学長(後編)

新たな時代の人と人とのつながり方

東京工業大学 上田紀行副学長

──つながりを確認し、成熟させていくことが大事なのですね。

 

 そうです。コロナ禍にあって多くの人が、誰かと関わり合いながら生きていること、インターネット上だけでなくリアルな触れ合いを求めていることを再認識したと思います。さらに、強制された触れ合いが少なくなった分、誰と深い関わりを持つのか、一緒に居たい人は誰なのかといったことをより深く考えるようになっているのではないでしょうか。

 

 先ほど、悩み苦しみから立ち上がるために信頼できる仲間を得ることが大切だと述べましたが、例えば、うつ的な状態に陥ってしまった時に、病院で診療を受けるだけでなく、お互いが支え合うセルフ・ヘルプ・グループなどに参加することで、自分の人生について率直に語り合って人生の棚卸しができ、背負っていたものが軽くなると共に、心を開いて話をできる人に出会った喜びが人生をさらに充実させていくといったことがあるわけです。そういうセルフ・ヘルプ・グループの活動を広めて、みんなが笑顔を取り戻せるような運動をしている人もたくさんいます。

──MOAにも健康生活ネットワークというグループが各地にあり、悩み苦しんでいる人のために一緒に取り組んでいる人たちがいます。

 

 そういった人肌が感じられるような人間の集まりという、そのサイズがとても重要だと思います。

 

 と言いますのは、日本は戦後40年間にわたり集団主義でやってきて、その中で個が集団に埋没してしまいました。そして、バブル経済が崩壊してからは、個人が責任を全部引き受けなければいけない、すべてが自己責任だということになり、その集団がどんどん切り崩されていったわけです。生きる意味を見つけ出していくことをサポートしていた、一つの中間社会がどんどん空洞化し崩壊してしまったといえます。

 

 ですから、その中間社会、人の顔が見えて「私はここに居てもいいのだ」と思えるようなグループサイズのコミュニティーを再創造していかないといけないと思うのです。そのためにも、サポートグループであるとか、セルフ・ヘルプ・グループなどが果たす役割は大きなものがあるのではないでしょうか。

 

 そうしたグループに参加することは、人生を複線化することにもなります。仕事一筋で会社からの評価や、お金をもうけることだけを目的に生きていると、評価が得られなくなった時のダメージは大きいということは先に述べましたが、そうならないためにも、本線以外のものを複線として持っておくことが大事です。それはPTA活動でも、町内会活動、趣味の世界でも良いですが、ボランティア活動などを通して誰かに喜んでもらえることだとなお良いと思います。実際に、寄付をしたり、他の人のために取り組んでいる人は幸福度が高いというデータもあります。

 

 ですから、ウィズコロナ、アフターコロナのこれからの時代は、今一度「満足度の高い人の集い方とは」ということが問われてくると思います。インターネットのつながりで足りる部分と、リアルでつながらなければいけない部分を、自分自身の中ではっきりさせていくことが大切になってくるのです。

──新たな時代の新たな人と人とのつながり方を考えていきたいと思います。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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上田紀行副学長の著書『覚醒のネットワーク』のご紹介
上田副学長の著書『覚醒のネットワーク』が、2022年5月6日にアノニマ・スタジオから出版されました。同著は、1989年にカタツムリ社から発行された後、講談社、河出書房新社から出版されており、その新装復刊版となります。最初の発行から30数年の時を経ていますが、その内容はいまなお新しさを感じるものです。厳しい社会情勢の中で生きる現代の人々に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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