栃木県宇都宮市
地域共生社会を促す統合医療の社会モデル紹介
2024年12月14、15の両日、栃木県宇都宮市のライトキューブ宇都宮を会場に「第28回日本統合医療学会学術大会(大会長/鶴岡浩樹日本社会事業大学大学院教授)」が「地域共生社会における統合医療の役割」をテーマに開催。多様化、複雑化した地域の問題に対処するために、医療・福祉などの制度や分野、支え手と受け手の垣根を取り払って助け合う地域共生社会の実現が求められていることから、住民に向けたヘルスプロモーションなどの予防活動、介護、緩和ケアなど、地域の社会資源になり得る統合医療の社会モデルの価値を示す大会となりました。多数の講演やシンポジウムが行われる中、(一社)MOAインターナショナルと医療法人財団が提携して運営される療院の関係者や(一財)MOA健康科学センターの研究員らがシンポジウム・一般演題で発表した他、岡田式浄化療法の体験ワークショップが行われました。
14日開催のシンポジウム「統合医療社会モデルで地域共生社会をつくる」では、片村宏(医)玉川会MOA新高輪クリニック院長が「医療モデルと社会モデルの一体化による『共助モデル』について」と題して発表しました。地域住民を中心としたコミュニティーによる住民の生活の質(QOL)向上を目的とする社会モデルと、患者を中心とした医療従事者の多職種連携による体制で疾病に対応する医療モデルの両方を担う施設として、同学会から認定されている東京療院について紹介。医療と岡田式健康法による患者の生活習慣改善の提案をはじめ、患者が健康になり岡田式健康法の資格を取得してボランティア参加できること、MOA健康生活ネットワークによる健康づくりや食運動などの活動を支援して地域の絆と支える力を高めていることなどを解説しました。互いに支え合うコミュニティーによって病気になりにくくなり、生活の質が高くなり、医療費が抑えられるなど社会モデルは健康長寿社会を実現する哲学だと強調し、東京療院では地域のネットワークと連携することで社会モデルと医療モデルが一体化した共助モデルを広げていきたいと語りました。
総合討論では座長を務める同学会理事の鈴木清志(一財)MOA健康科学センター理事長の進行で、片村院長と那須まちづくり広場(社会モデル認定施設)の鏑木孝昭取締役が登壇し、社会モデルを進めるための地域連携の重要性などについて討論しました。
(→東京療院「社会モデル」認定の記事はこちら)
同日のシンポジウム「学術研究の方向性」では、演者の1人として鈴木清志理事長が「心身療法の研究の難しさとその意義」と題して発表。エネルギー療法をはじめ芸術療法やヨガなどの心身療法について、心理的効果以上の有効性を証明する必要があるものの、プラセボ効果を比較対照群とする研究だけでは効果や優位性を証明するのは難しいと解説。難病への治療効果や、多くの参加者を対象にした研究などを進めることも有効と述べ、岡田式浄化療法の研究例として、受け手に分からないよう背中側から浄化療法を行った際に脳波が有意に変化した実験や、アフリカのコンゴ民主共和国で浄化療法を1年間受けたSS貧血症(鎌型赤血球貧血症)患者たちの疼痛発作や入院回数が減少した臨床研究、日本人6万人を対象とした大規模なアンケート調査の解析結果を伝えました。鈴木理事長は発表後の総合討論に登壇して学術研究の在り方について意見交換した他、浄化療法に興味を持った聴講者に、翌15日の体験ワークショップ開催を伝えました。
岡田式浄化療法ワークショップ
15日に岡田式浄化療法の体験ワークショップが開催され、2度の体験機会に医師や鍼灸(しんきゅう)師、ヨガ講師など約40人が参加しました。はじめに日本統合医療学会認定協働師である富嶋謙之(医)玉川会MOA奥熱海クリニック准看護師がエネルギー療法として浄化療法を紹介し、MOAインターナショナルが認定する資格制度と療院での療法士ボランティアについて解説。専任療法士が探査と施術のデモンストレーションを行いました。
続いて希望者が、専任療法士から浄化療法を受けました。探査の後、肩や腰にポイントを絞り込んで浄化療法を受け、体調の変化を実感して熱心に質問する人の姿も見られました。体験した医療関係者からは「体に触れない健康法には半信半疑でしたが、肩をやってもらっているのに腰まで温かくなり、お風呂に入っているようにぽかぽかしました」「肩が楽になる一方で反対側の肩がつらくなり、そちらもやってもらいました。左右で受けていない方に影響が出る場合があると教えてもらい、ますます興味深かったです」などの声が聞かれ、自らも浄化療法を実践してみたいと初級講座受講を希望する人たちもいました。
MOA関係者が一般演題で発表
今学会では、一般演題としてMOA関係者6人がポスター発表を行いました。人と人の関係性やつながりが健康に影響すると言われ、統合医療の社会モデルが注目される中、MOAインターナショナルの丹治博子社会福祉士は「地域共生社会における『MOA健康生活ネットワーク研修』の意義〜統合医療施設と地域コミュニティ(MOA健康生活ネットワーク)との連携の実践」について発表。東京療院と連携して心身ともに健康な人づくりにそれぞれの地域で取り組むMOA健康生活ネットワークの人材育成、支え合う関係性の向上を促す研修を実施した結果、互いを高め合う関係性が育まれ、ボランティア参加の機運が高まるなど、地域共生社会構築につながる機会になったと述べました。
同じMOAインターナショナルの眞弓俊也スタッフは「地域共生社会における統合医療の医療モデルと連携した社会モデルの取り組み〜在宅での終末期がん患者のケアを通して」と題して、在宅医療のケアに社会モデルが有用だった取り組み例を発表。膵頭部がんの50代女性に対して、名古屋療院と連携するMOA健康生活ネットワークのメンバーが、岡田式健康法によるケアを行う中で、女性が限られた時間を喜びと感謝の中で過ごしたと述べ、互いをケアする人間関係の存在、社会モデルがよりよいケアにつながり、現在の在宅医療だけでは届かないニーズをサポートする可能性があると報告しました。
(医)玉川会金沢クリニックの中川宏美管理栄養士は「能登半島地震における炊き出し支援と併せて実施した統合医療的ケア」について報告。MOA健康生活ネットワーク、(一社)MOA自然農法文化事業団北陸支所と協働して、被災家庭への訪問、避難所でのサークル花を用いた心のケア、炊き出し支援を継続する一方、金沢療院、東京療院、広島療院の管理栄養士や調理師と共に避難所となっている七尾市内の小学校、珠洲市内の中学校での炊き出しを実施し、喜ばれたことを報告。特にカフェの提供は、コミュニケーションを生み、一方通行の支援ではなく相互支援を行うコミュニティーのモデルにつながる可能性が示唆され、日常的に活動する健康生活ネットワークの顔の見える絆が災害支援に力を発揮したと述べました。
(→能登半島被災地支援活動の記事はこちら)
この他、MOA関係者からはMOA健康科学センターの内田誠也主任研究員による「日芸版『癒し』評価スケールを用いた相補代替医療の癒しの評価およびその癒し度と肩の筋硬度との関連」、MOA高輪クリニックの神田康代看護師による「統合医療施設における『ケアの振り返りメモ』を活用した看護実践の報告」、MOAインターナショナルの佐藤智広東京療院浄化療法インストラクターによる「シセイカルテ(AIによる姿勢・動作分析)を用いたセルフケア促進の取り組みについての予備的検討」の発表が行われ、多くの参加者が聴講しました。
2日間にわたる同学会では、大会長講演「地域共生社会における統合医療の役割〜地域包括ケアシステムから地域共生社会へ」やシンポジウム「災害医療と統合医療:地域共生社会における防災と統合医療」「地域における多職種多機構連携」などが開催されました。関連行事として学会後の16日には、希望者が社会モデル認定施設である那須まちづくり広場を見学しました。
主催/第28回日本統合医療学会学術大会組織委員会
※発表者の所属団体名は学術大会抄録集に準じています。