医療におけるスピリチュアリティ
高度で専門的な医療現場では、エビデンス(科学的根拠)を重視するあまり、患者本人よりも病気に焦点が当たりがちだといわれる。そうした中にあって慶應義塾大学看護医療学部の加藤眞三教授は、肝臓病患者を対象とした「肝臓病教室」や慢性病の患者同士が語り合う場としての「慢性病患者ごった煮会」などを定期的に開き、常に医療の本質を追求し、患者を中心に置いた医療に取り組んできた。近年では「信仰を持つ医療者の連帯のための会」の創設メンバーとして、スピリチュアルケアの普及にも力を入れている。加藤教授に患者中心の医療のありよう、医療とスピリチュアリティの関係について話を伺った。
──先生が肝臓病を専門にされたきっかけは……。
さかのぼれば8代前まで医師の続く家に生まれた折、医学部に進むことは特別なことというより自然なことでした。肝臓病に関わるきっかけは、私自身が20歳の時にB型肝炎を発症したことです。入院生活を通して、病気のどんなこと、医療者のどんな態度が気になるのかなど、患者の視点を持つことができました。病気を抱えていると、結婚や就職など、さまざまな社会生活上の困難があることにも気付きました。こうした体験や気付きが、患者中心の医療への原点です。
卒業後は肝臓病を研究したいと思い、慶應義塾大学病院の消化器内科に入局しました。本当はウイルス性肝炎を研究したかったのですが、上司がアルコール性肝炎を専門にしていたので、私もそちらに進むことになりました。
今にしてみれば、このことにも意味がありました。肝臓病の中でもアルコール性は、生活習慣病の側面が強い病気です。悪いと思っていてもなかなか習慣を変えられないという意味では、糖尿病や肥満、脂質異常などの生活習慣病と同じで、禁止するのではなく、生活習慣をどう変えていくかというアプローチが必要になります。生活習慣病という言葉もない頃ですが、そのことに早くから興味を持つことができました。