慶應義塾大学看護医療学部 加藤 眞三 教授

生活習慣の改善と魂の成長の関係

──それが「AA(アルコホーリクス・アノニマス)のメッセージ」につながったのですね。

 アルコールの依存症でなかなか良くならない患者さんをどうしたらいいかと同級生の精神科医に相談すると、アルコール依存症の患者さんの自助グループであるAAの存在を教えられました。AAは教会や公民館などで行われていますが、2000年から大学病院内で「AAのメッセージ」との名称で模擬AAを行ってきました。月に1回開催し、今年で19年になります。
 そこでは私は傍聴している存在です。100回以上参加していて分かったことは、アルコール依存症の患者さんは魂に傷を抱えており、苦しみながら飲んでいるということでした。メッセージという会の中で自分たちの過去を振り返っていくことで、自分の中の魂の傷を直視することができるようになり、その傷を修復する力を得て、飲まずに済む人が出てくるのです。これはまさに、魂の傷を癒やし依存症から立ち直っていく、スピリチュアルグロース(魂の成長)を意味しています。
 回を重ねる中で、生活を見直すことそのものが魂の成長につながることを強く実感し、薬で治すだけが医療ではないと考えるようになりました。病気だけでなく、患者さんの生き方を含めて全人的に見ていくことの大切さですね。
 ウイルス性の慢性肝臓病の患者さんに対しては、1992年から「肝臓病教室」を開いてきました。最初は治療方法や副作用などについて、医師が情報提供する場だったのですが、患者さんの質問に答えていく中で、実は医師が知らない情報を患者さんが持っていること、同じ情報であっても患者さん同士が体験を基に語り合った方が良いことに気付きました。
 教室の最後の30分をグループワークの時間にして、どんなことがつらいのか、例えばこむら返りが起きた時にはどうしているとか、そんな話を自由にしてもらいました。肝硬変や肝臓がんの治療を続けながらも元気で飛び回っている人の話を聞いて「私もあんなふうに元気に生きていられるのだ」と、希望を持つ患者さんも多かったですね。

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