慶應義塾大学看護医療学部 加藤 眞三 教授

患者中心の医療に変わりつつある医療現場

──これからの医療は、患者中心へと変わっていくのでしょうか。

 流れは明らかにその方向に向かっていると思います。肝臓病教室を始めた後に『肝臓病教室のすすめ〜新しい医師・患者関係をめざして』(鍬谷書店)という本を出したことで、全国の病院から多くの見学者が来るようになりました。しかも「医師・看護師・栄養士・事務のチームで行うのがよい」と書いたので、4職種で見学される方が多かったのです。約140施設が見学に来て、実際に全国の約150施設が肝臓病教室を行うようになりました。これは当時の消化器病学会認定病院の約15%に相当する数です。
 2009年には、厚生労働省の中に肝炎対策室が設置され、肝炎対策基本法ができた時、厚労省から「肝臓病教室について講演してほしい」という依頼がきました。「慶應義塾大学病院でやっているような肝臓病教室を全国でやってほしい」という患者さんの声が厚労省に届いたからです。

──草の根運動的な取り組みが中央省庁を動かしたのですね。

 ある意味、時代の大きな変化です。肝臓病教室が当たり前になったように、次はスピリチュアルケアが当たり前にならなければいけないと思っています。
 今は「あなたはこういう病気ですよ」と病院で情報提供を受けると、多くの人がその病気をインターネットで検索します。すると「5年生存率が何パーセント」などと即座に出てくるのです。つまり情報提供を受けると同時に、スピリチュアルペインを受けてしまいます。ですから、情報提供とスピリチュアルケアは同時並行でやらなければいけません。
 現実に医療分野でもスピリチュアルケアは、世の中にだんだん受け入れられてきています。例えば2007年には日本スピリチュアルケア学会が設立され、その後臨床宗教師という制度もできました。その人たちが医療の現場に入って活動している話も聞くようになってきています。
 振り返ってみると、AAや肝臓病教室、ごった煮会などでやってきたことも患者さん同士のコミュニケーションの場であった一方で、ある意味双方向性のスピリチュアルケアの一つの在り方だったのです。

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