慶應義塾大学看護医療学部 加藤 眞三 教授

病気の反対が元気なのではない

──慢性病態学と終末期病態学を担当されるようになったのは……。

 偶然、私が医学部を出なければいけない時期に、看護医療学部での欠員ができ、慢性病と終末期病の病態学を受け持つ教授に選考されました。肝臓病をはじめとする慢性的な病気の患者さんをたくさん診てきましたし、肝硬変とか肝臓がんで亡くなる人に接する機会も多かったので引き受けました。その後、患者会の活動に興味を持ち患者会に出入りしていると、それこそ余命宣告を受けるような難病の患者さんと接する機会が増えました。
 大きい苦悩を抱えておられるのですが、肝臓病教室の時と違って、同じ病気の患者さん同士では、つらい話は怖くてできないという相談を受けたのです。そうした中で始めたのが「慢性病患者ごった煮会」です。進行性の病気や難しい病気を抱えた人に集まってもらい、つらい思いや苦しい体験を分かち合えるような機会になればと思ったのです。いろいろな病気の人やその家族、立場も世代も違う人たちが集まって、違った角度からアドバイスをし合えるということに、大きな意味がありました。
 回を重ねる中で良い場が醸成され、初めて参加した人でも「ここでは自分の苦しいことを話してもいいのだ」と思えるような場となってきました。それぞれが苦しみを経験してきたからこそ、本当に親身になって相手に接するからだと思います。その場で交わされる言葉には、見えない力といいますか、元気になってほしい、良くなってほしい、前向きになってほしいといった、祈りのようなものが感じられました。
 「病気の反対が元気なのではない」と私は言っているのですが、患者会などで世話人をしている人は、病気であっても皆さんとても元気です。自分と同じ病気を抱えた人たちの世話をすることによって、自分の生きている意味を認識できるからではないでしょうか。
 すると、体にも変化が出てきます。生きる力とか意欲が高まることによって、体の中に病気を乗り越える何らかの力が出てくるのだと感じます。実際に、余命2年と宣告された患者さんで、14年たった今も、病気を抱えながらも元気に過ごされている方がいます。

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