対談 上智大学グリーフケア研究所 島薗 進 所長、一般財団法人MOA健康科学センター 鈴木 清志 理事長

注目が集まるスピリチュアリティ

鈴木 そうしたケアとか癒しとかを考えた時に、私は、宗教性やスピリチュアリティのないケアというのは、実際にはほとんどないと思うのですが、いかがでしょうか。

島薗 その通りだと思います。それが顕著に現れたのが、東日本大震災の時でした。自分に近しい人が亡くなって胸がいっぱいの方は、誰とも何も話したくない。しかし、この気持ちを誰かに話したいとも思っていました。そういう人に寄り添って共に過ごしているうちに、心が打ち解けてきて、悲しみやつらさを分かち合えるようになっていったのです。そして、亡くなった人の存在を身近に感じたというような、目に見えない働きを多くの人が感じました。これはとてもスピリチュアルな体験ですね。
 阪神淡路大震災の時にも、心のケアの大切さが強調されましたが、臨床心理学や精神医学の範囲に留まり、スピリチュアリティはそれほど意識されませんでした。東日本大震災の時には、ケアの中のスピリチュアリティが自然に意識されたのです。東北は宗教文化が色濃く残っていますので、そうした土地柄もあったでしょうが、やはり時代が変わってきたように思います。

鈴木 スピリチュアリティという言葉や概念が、素直に受け入れられたということですね。

島薗 WHOでも、健康の定義にスピリチュアルな要素を考えるようになりましたし、病院の機能評価でも次第にスピリチュアリティの要素を取り入れるようになってきました。
 欧米諸国で、特にキリスト教は医療において一定の場所をもっているのですが、日本はそうではありません。仏教は死後に関係するものというイメージが強いこともあって、スピリチュアリティは医療から排除されてきました。しかし今は、医療の中にもっとスピリチュアリティを取り入れるべきだという声が大きくなっています。
 そうした中で、上智大学グリーフケア研究所では、医療やケアを行うスタッフを対象に、臨床宗教師、スピリチュアルケア師を養成しています。その養成プログラムは、基本的にはアメリカから導入したものですが、そこに日本の文化やアジアの伝統とうまく調和させるようにしています。この試みは、世界に対する貢献にもなると考えています。

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