人の役に立つことを生きる目的に
── 認め合う人たちのグループが助け合うことが大事なのですね。
認めるということは健康長寿の実現に対しても不可欠なポイントであろうと思います。自分が認められ、自分が存在していることが世の中のプラスになっていると感じている人は長生きです。80歳の時に高校の同期会をしたのですが、死亡率は20%でした。大学の医学部の同級生の場合は12%でした。医者は高齢になっても医療現場で働いている人も多く、人の役に立っているという自覚もありますし、周囲も認めていることが寿命に影響しているのだと思います。
超高齢社会にあって、もう一つ大事なことは加齢を理解するということです。人間は70歳代半ばで身体機能は50%低下します。脳細胞とそのネットワークに使う時間は20%にとどまり、記憶は50%以下になります。ですから70歳代半ばで20歳代の健康を求めるのは現実的ではないと思います。加齢を理解し容認することで、そうしたことに使われる分の医療費が減れば、国全体の医療費の減少にもつながるのではないでしょうか。
人のために役立つことをして有用感や自己肯定感を高めることは、健康の維持・増進につながり、ひいては国の医療費削減にも貢献する、そういったことも未来型医療には欠かせないのです。
未来型医療とは、患者さん一人一人を見つめ双方向性のある医療であり、西洋医学以外の治療に携わる人たちも加えたチーム医療、予防医学とも連携したケア型の医療、共助グループなどでのボランティアを通して人のために役立つシステムが充実・発展していく医療、だといえます。こうした医療がさらに充実、発展することに期待しています。
── 新しい時代の医療の姿が見えてきました。貴重なお話の数々、ありがとうございました。
にった・しんいち
宮城県生まれ。1966年東北大学医学部卒。74年米国ベイラー医科大学研究員、96年東北大学加齢医学研究所教授(東京工業大学併任)、98年東北大学副総長。日本人工臓器学会理事長、国際人工臓器学会理事長、日本BME学会副会長、厚生労働省薬事審議会臨時委員・専門委員、経済産業省新エネルギー機構プログラムマネジャー、宮城県予防医学協会理事長、東北大学研究教育財団常務理事などを歴任。専門は外科、人工臓器、統合医療。2012年から(一社)日本統合医療学会理事長、18年同学会名誉理事長に就任。
この記事は機関誌『楽園』79号(2020春)に掲載したものです