一般社団法人日本統合医療学会 仁田 新一 名誉理事長

双方向性を持つチーム医療が大事

── 先生はどのように統合医療に関わってこられたのでしょうか。
 さまざまな療法に関わってきましたが、一つご紹介すると、統合医療学会の理事であり、札幌市立大学看護学部の猪股千代子教授と一緒に、北海道難病センターで音楽療法に携わったことがあります。
 それまでの音楽療法は、自分たちの療法を一方通行的に患者さんに施すものでした。私が医師の立場、猪股先生が看護師の立場から音楽療法士さんに患者さんの医療情報を提供し、その上で患者さんに適した在り方、具体的にはテンポを遅くしたり、トーンを低くしたりしながら、一人一人に合わせた音楽療法を進めることで、よりダイナミックに患者さんに変化が表れるようになりました。
 音楽療法士さんは、その変化を目の当たりにして、自分たちの能力を再確認すると共に、患者さんから癒やしを得るようになりました。一方的だった音楽療法に双方向性が生まれたのです。ある患者さんは、音楽療法を受けると笑顔が出るようになり、その姿を見ていた家族は涙し、音楽療法士さんも感動で涙を流しながらやっていました。

── まさに双方向性ですね。
 もう一つ、その現場では、音楽療法の他に、ヨガ療法やアロマセラピーなどいろいろな療法の人たちと連携した取り組みも行いました。それぞれの療法の考え方の違いから不協和音が生まれた時に「皆さんは何のためにやっているの? 患者さんのためでしょう」と呼び掛けたところ、その後は互いを尊重しながら患者さんと向き合うようになりました。患者さんにも良い影響が出て、皆さんも「単独でやるよりも患者さんに効果的」との認識を持つようになりました。
 私はよくオーケストラに例えて話すのですが、バイオリンだけが上手でもオーケストラにはなりません。各楽器のプロの演奏者が集まり、それぞれの知識や技術で美しいハーモニーを奏でることによって、オーケストラが真価を発揮します。医療に置き換えれば、各楽器のプロの演奏者は各療法のプロであり、美しいハーモニーとは連携して治療に当たることであり、オーケストラの真価とはチーム医療を指します。
 肝心なのは指揮者です。これまでのチーム医療では、指揮者は医師ばかりでしたが、私は看護師が指揮をすると、これまでとは全く違うハーモニーが生まれ、新たな真価が生まれると考えています。それと共に、指揮者はオーケストラの方ばかりを見て指揮棒を振るのではなく、絶えず聴衆=患者さんの方を見ていることが大事なのです。聴衆の反応を見て曲のリズムやテンポを調整する=患者さんの状況に応じて対応を変える、これも双方向性ですね。
 みんなの力を借りてみんなで治療する、そうしたオーケストラのようなチーム医療が、未来型医療であり統合医療なのです。

あわせて読みたいコーナー

PAGETOP