新潟県佐渡市 2025.12.10
行政施策を踏まえ食・農を考える
11月9日、あいぽーと佐渡メインホールで「美しいいのち輝く島づくりシンポジウム〜人とトキが共生し、みんなが農業に参加できる社会をめざす一日」が開催され、市民をはじめ行政関係者、教育関係者、地元農業従事者ら約180人が参加しました。中村長生・佐渡市農業政策課長による基調講演と3人のパネリストによるパネルディスカッションが行われ、参加者は佐渡市の「自然環境の保全」「健康づくりの推進」「農業の振興」への施策に理解を深め、魅力ある島づくりをそれぞれの立場で担っていく意識を高めました。
開会に当たり、主催者を代表して杉本正徳（一社）MOA自然農法文化事業団理事長が挨拶。来賓を代表して大田佳美・新潟県佐渡地域振興局長が花角英世知事のメッセージを代読し、渡辺竜五・佐渡市長がビデオメッセージで祝辞を述べた他、祝電も披露されました。
中村課長は「みんなが農業に関わる佐渡を目指して」と題して講演。2024年に改正された「食料・農業・農村基本法」に触れ、環境と調和の取れた食料システムや、人口減少下における農村の地域コミュニティーの維持などを明確な課題としていることが特徴と説明。佐渡市がそれらを踏まえて取り組む、農業に従事すること、手伝うこと、収穫物を食べることを通じて、多くの人が農業に関わる仕組みづくりについて紹介しました。
佐渡市では2007年に始まった独自の認証制度「朱鷺（とき）と暮らす郷（さと）づくり」について説明。化学合成農薬と化学肥料の使用量を5割以上削減し、生物多様性を育むべく、トキの餌場となるあぜへの除草剤を使わずに作った米「朱鷺と暮らす郷」は、学校給食にも活用されていると語りました。2011年「トキと共生する佐渡の里山」として世界農業遺産に認定された同市では現在、稲作約5,500ヘクタールのうち88％が5割減栽培を実施する一方、MOA自然農法を含む化学合成農薬・化学肥料不使用栽培は1％にとどまるとして、拡大に努めていることを紹介。トキにも人にも優しい農業に興味を持ち、関わる人を増やすため、食育にも力を入れ、未来につなぐ魅力ある島づくりへの願いを訴えました。
パネルディスカッションでは、山﨑理・新潟県佐渡保健所長をコーディネーターに、化学合成農薬や化学肥料に依存しない栽培の普及への取り組みなどが各パネリストから紹介されました。
エコファーマー認定農業者で、果物の生産・販売を行う上杉育子・ファーム193（いくさん）代表は、幼少期の病弱だった体験や、沖縄で出合った「ぬちぐすい（沖縄の方言で命の薬）」の言葉に触発されたエピソードを紹介。「農業は命をつくる生命産業」をモットーに、自然と対話しつつ恵みを受け、人を思いやって絆を育みながら、低農薬・無化学肥料での栽培に取り組んでいることを紹介しました。
篠原豪・佐渡の子どもたちの未来を守る会会長は、家族の病気をきっかけに、現代の食をはじめ生活習慣に疑問を抱くようになったと述懐。現在は身土不二や食の安全を意識しつつ、経営する旅館「いさりびの宿 道遊」で有機農産物を主とした食事を提供していると紹介。「佐渡の子どもたちの未来を守る会」を設立して、オーガニックマルシェなど、環境保全や健康に資する活動を展開していると語りました。
田井中一貴・新潟大学脳研究所教授は、農業を含め自然環境に触れることが人の健康に与える影響に言及。減農薬栽培の普及で生態系が充実する佐渡市で、みんなが農業に関わる環境づくりは、子どもたちの健康にも好影響を与えると強調。イギリスでの園芸療法の研究成果も紹介し、農作業は孤独感を低減し、社会への帰属意識を高めるきっかけになるとして、超高齢社会におけるコミュニティーの再構築にも非常に有効だと訴えました。
会場の聴講者から感想が寄せられ、佐渡市健康医療対策課の田村京子保健師は「命を守るために食は大事だと改めて実感しました」と述べ、市民の健康課題解消に向け、子どもの頃から安全なお米と野菜で育つ環境を大切にし、幅広い世代で健康意識を高めたいとの思いを披歴しました。
最後に板垣和弥・MOA自然農法新潟県普及会連合会会長が閉会挨拶を行いました。参加者はこの後、館内の催事ブースで同時開催されたオーガニック栽培や自然栽培による農産物の展示・販売会を楽しみ、新米の試食なども体験しました。
主催／MOA自然農法新潟県普及会連合会、（一社）MOA自然農法文化事業団 共催／MOA自然農法佐渡普及会 協賛／新潟オーガニック連絡協議会、JA佐渡自然栽培研究会、佐渡市消費者協会、（農）夢の谷ファーム 後援／新潟県、佐渡市、佐渡市教育委員会、佐渡汽船（株）、新潟日報社、BSN新潟放送、NST新潟総合テレビ、TeNYテレビ新潟、UX新潟テレビ21、佐渡テレビジョン
