日本有機農業学会─「農医連携」に関心高く

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茨城県水戸市
加藤研究員が医師、ケア事業者らと討論

12月4、5の両日「第22回日本有機農業学会」が茨城大学を会場にオンラインで開催され、農業研究者ら153人が参加。(公財)農業・環境・健康研究所の加藤孝太郎研究員が座長を務め、全体セッション「農医連携と有機農業」が行われ、注目を集めました。

 

はじめに加藤研究員が、分離が進み過ぎた農と医を再び結びつける農医連携の重要性に触れ、これを進める大仁瑞泉郷の活動を紹介。自然農法・有機農業を軸とした農医連携の在り方について考えたいと問い掛け、ケア事業者、医師、農業研究者が話題提供を行いました。

 

 

工藤美弥(有)トゥインクル・ライフ代表は、認知症の高齢者が入居するグループホーム「美咲の家」の食事に、自然農法の農産物を取り入れていることを紹介。入居者が自ら準備し、会話しながら食事を楽しむ中で食欲が増し、健康が維持されていると述べ、壊死(えし)状態の足が改善し自立歩行が可能になったり、みとられる日まで自然食に限って食べることができたなどの事例を紹介。生命力のある食材を日常的に食べることが最大の病気予防であり、症状の改善につながるとの実感を述べました。

 

 

西村鉄也(国共連)横浜栄共済病院医師は、アレルギー疾患の特徴を解説。自然豊かな農場で多様な微生物に接した子どもはぜんそくの症状が出にくいことや、アレルギーを発症する児童の腸内細菌が多様性に欠けているなどの研究結果を紹介し、農業と医療の連携はアレルギー疾患の有効な予防法につながるとの見解を示しました。

 

杉岡良彦(一財)信貴山病院グループ上野病院医師は、多くの水田が収量を減らした東北大冷害(昭和56年)にあって、自然農法は通常の約8割を収穫できたことを明らかにした研究を例に挙げつつ、実験室での研究重視から実際の効果を重視する科学の大切さを確認。岡田茂吉らを自然農法の提唱者、実践者として挙げ、その核となる考え「土、自然は農作物を育てる力を有し」本来の農業はその「力を尊重するという態度の上に成立する」ことが科学的裏付けで支持されれば、医学も「身体は病気を治癒し、健康を保つ力を有し」本来の医学は「身体の有する力を尊重するという態度の上に成立する」という立場があってよいと述べ、農医連携の哲学は、新たな医学や農学の構築に向けての示唆と科学的研究への情熱を提供する使命を有していると語りました。

 

江口定夫(国研)農業・食品産業技術総合研究機構主席研究員は、食料の生産や廃棄などで増え続ける反応性窒素について解説。人間の制御可能なレベルを超え、水質や大気の汚染、温暖化など地球環境や生物多様性に深刻な影響を与えている現状を紹介し、有効に窒素を循環させる手だてとして、環境負荷が低い次世代型の有機農業技術の開発・拡大や、1975年頃の日本食を代表とする健康的な食習慣や食品ロス削減の必要性を伝えました。

 

加藤研究員と各発表者が討論し、人間の生命に関わる農業と医療には共通して「いかに生きるか」というテーマがあると確認。食と健康の分野にとどまらず、今後の人間や社会の在り方を見直していく上で、農医連携がパラダイムシフト(価値観の転換)をもたらす可能性を確認しました。討論中は配信で聴講している参加者からチャットで質問が寄せられるなど、関心の高さがうかがわれました。

 

農水省が「みどりの食料システム戦略」で2050年までに「耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%に拡大」することを目標に掲げるなど、有機農業のさらなる拡大が求められる中で行われた同学会では、この他「生物多様性保全と有機農業」「農業大国いばらきの有機農業拡大・振興への挑戦」のセッションや、有機農業技術の研究発表などが行われました。

 

 

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