大仁研究農場で有機農業のシンポジウム開催(午後の部)

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静岡県伊豆の国市
有機農業に携わる人材育成の必要性を共有

8月5日にMOA研修センターで行われた「第8回シンポジウム〜有機農業の普及・推進を考える〜」の午後の部では、はじめに(公財)農業・環境・健康研究所の岩元明久代表理事が挨拶に立ち、シンポジウム開催の願いを説明しました。

 

川勝平太静岡県知事のビデオメッセージが上映されました。その中で川勝知事は、昨秋、同農場を視察した際の感想を披歴。静岡県における有機農業の普及・拡大に向けた目標を紹介した上で「本県の歩みと、自然農法大学校、あるいは農業・環境・健康研究所の思想は一致している」と述べました。後援した伊豆の国市の山下正行市長、三島市の豊岡武士市長が登壇し、それぞれに有機農業の普及・拡大への期待と決意を語りました。

 

川勝知事がビデオメッセージを寄せた

 

農林水産省農産局農産政策部農業環境対策課の大山兼広生産専門官が挨拶に立ち、昨年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、有機農業の実施面積を2050年までに全耕地面積の25%、100万ヘクタールまで拡大をしていくという極めて意欲的な目標を掲げたと強調。同時に、有機農産物を扱うマーケットの拡大、学校給食への導入、流通の整備にも取り組んでいくと述べるなど、国としても有機農業推進に強い決意をもって取り組んでいると強く訴えました。

 

基調講演に立った、元静岡県農林水産戦略監である吉田茂NPO法人しずおかオーガニックウェブ代表理事は「有機農業の拡大に向けて」「望まれる人々の意識改革」をポイントに、日本および世界の有機農業を取り巻くさまざまなデータを基に詳細に説明。日本においても有機農業に対するフェーズ(局面)が大きく変わってきており、その現れが「みどりの食料システム戦略」であると強調。その目標達成のためには、マーケットの拡大が大事であるが、同時に、消費者、生産者をはじめ農業関係者、それぞれの意識改革が必要であることを、特に有機農業の先進地であるヨーロッパ諸国と日本における数的データや有機農産物に対する意識調査結果などを紹介しながら、詳しく説明しました。

 

吉田代表理事が基調講演

 

マーケットの拡大と消費者の意識改革については、NHKが行った国民の食品に対するアンケート調査の結果を基に、日本人の85%が「安い外国産のものよりも高くても国産のものを選ぶ」と回答しており、食品に対して「安全」を最も重視していることを紹介。また、農林水産省が行った消費者モニター調査では、80%超が有機農産物を購入したいとの希望を持ち、その一番目の理由も「安全だから」だったと明らかにしました。これらの調査結果を合わせて考えると、安全である有機農産物に対する消費者のニーズは高いと分析。しかし、現実に有機農産物を購入しているのは18%に過ぎず、その原因は購入できるマーケットが小さいためではないかと述べました。

 

その点について、世界で一番有機食品市場の割合が高いデンマークでの調査と比較して言及。同国においては、有機農業を普及・拡大するために、有機農産物を買うことが気候変動や良い飲み水の確保に役立つなどといったように、政府が消費者に直接アプローチしており、同国民の有機農産物の認証マークの認識率は90%を超えていると強調。同様にスーパーの担当者やレストランのシェフに対しても研修などを行っていることも紹介。そうした取り組みが世界一につながっている理由だと語りました。

 

7月1日に施行された「みどりの食料システム法」の中には「消費者は、基本理念にのっとり、環境と調和のとれた食料システムに対する理解と関心を深め、環境への負荷の低減に資する農林水産物等を選択するよう努めなければならない」とあり、法律でこうした努力義務が記されたことは非常に大きな意味があると思っていると述べ、これも有機農業に対するフェーズが大きく変わってきている表れであると訴えました。

 

生産者の意識改革については、まず農業従事者の高齢化と担い手不足についてのデータを解説し、トータルでは右下がりに従事者が減っている一方、さまざまな制度などが整備されたことで新規参入者が増えていると言及。その新規参入者の25%から30%近くが有機農業を実施していると述べました。その上で、既存の農家に対して、安全・安心を前面に押し立てて有機農業を勧めることは「今までの努力って何だったの?」「自分たちのことはちゃんと認めてもらえていない」といったことにつながるので、例えば「できるだけ化学肥料等を使わずに、気候変動に影響が少ない農業を」というように、丁寧に説明を重ねていくことが必要だと語りました。そのためにも、まずは農家と関わる行政などの担当者が「みどりの食料システム戦略」に示された有機農業全般について理解を深めていくことが大事だと訴えました。

 

令和3年度から始まった第4次食育推進基本計画の目標の一つに、学校給食における地場産物を活用した取り組み数を増やすということが挙げられていることを紹介。この地場産物をぜひ有機農産物にしていきたいとの思いを披歴。実際にSNSを使った調査では、実に96%の人が有機農産物を使った学校給食を望んでいることを紹介。県、市町の担当者の理解と協力を願いました。

 

最後に、生産者の人材育成について言及。県西部の磐田市にある県立農林環境専門職大学と県東部の自然農法大学校が、静岡大学、県内の農業高校と連携して人材育成を図るために「連絡会」をつくることを提案。さらに県および市町が連携して、有機農業に携わる人材の育成に取り組む必要性を強調。そのために尽力している同大学校の田坂校長の地道な取り組みと、研究機関と教育機関を兼ね備えた農業・環境・健康研究所の活動がより充実していくことに期待を寄せました。

 

県立田方農業高校の久保田校長と同校生徒らによる「高校教育における有機JASの取り組みについて」と題した活動報告が行われました。続いて、自然農法大学校の卒業生である相馬知仁さん、同大学校が受託していた静岡県職業訓練校有機農業コースの修了生である高月洋祐さんが、新規就農者としてのやりがいや生産者が連携し有機農産物の知名度アップに取り組む「伊豆ブランド」の活動について、それぞれに事例報告。同大学校を卒業し、叔父である深澤充太郎さんの農園に就職した山本知可さんが、深澤さんとともに登壇。深澤さんが、さまざまな困難に直面しつつも、それを乗り越え、自然農法を半世紀にわたり続けてきた思いについて熱く語り、山本さんは、後継者がいなかった深澤農園を引き継いでいく決意とその背景や思いについて訴えました。

 

新規就農者らが事例報告(写真は高月さん)

 

意見交換が行われました。同大学校の前校長でもあり現在も講師を務める陽捷行北里大学名誉教授が、有機農業を真・善・美で捉えると、「真」とは有機農業に対する科学であり、「善」は有機農業が人々の健康に良い影響を与えるかということで、「美」は有機農業が環境に良い影響を与えるかどうかということでないかと訴え、加えて「志」が必要であるとの意見を披歴。その真・善・美・志について、生産者、消費者、教育者など、それぞれの立場で考えてほしいと呼び掛けました。

 

県経済産業部食と農の振興課の武藤浩志農産環境班長は、それぞれ立場によって方向性が違う中にあって、県としては、研究者、教育者、生産者、流通販売など関係者が参加して話し合う、プラットフォームのようなものを考えていきたいと思っていると語りました。

 

吉田代表理事は、さまざまな立場の人たちが有機農業に関わっているが、共通する「志」は「有機農業がこれからの社会には必要だ」という意識ではないかと語り、実際にそういう時代になっていると語りました。

 

最後に、静岡大学の副学長である森田明雄同研究所理事が「皆さま方と共に、有機農業の普及促進に向けて、情報交流の促進をしたいと考えている」と述べ、この大仁研究農場を有機農業の普及に向けた研修の会場として活用してほしいと呼び掛けました。

 

有機農業の輪が、市町から県へ、そして国へと大きく広がる起点となる意味ある一歩が記された今回のシンポジウムをきっかけに、農業・環境・健康研究所では、今後同農場を、各種有機農業研修をはじめ、有機農業を普及・拡大していくための会場として提供すると共に、地元の伊豆の国市および三島市、さらに近隣市町が、有機農業を切り口としたまちづくりを進めていけるよう担当者らと連携し、有機農業の研修指導事業を通した人材育成などで積極的に貢献していく予定。

 

主催/(公財)農業・環境・健康研究所

後援/静岡県、伊豆の国市、三島市

協賛/NPO法人しずおかオーガニックウェブ、(一財)MOA自然農法文化事業団

 

 

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