第25回 医療における宗教の重要性3〜宗教やスピリチュアリティは健康に良い

(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志

スピリチュアリティは、特定の宗教に属さない「大いなるもの(大自然、宇宙の根源的な力など)」との個人的、内面的な繋がりとされていますが、宗教と一緒に扱う研究が多いので、ここではまとめてお話しします。

 

お坊さんや神父さんは昔から長命ですが、さまざまな宗教やスピリチュアリティ(以下、まとめてR/S)を信じる人も健康で長生きの傾向があります。その理由は、R/Sがその人の生活や行動などに影響し、健康に有利な習慣や環境を好むためだと言われています。R/Sを信じる人の多くは煙草や大量飲酒、麻薬などを避けるようになり、R/Sを通して「人生の意味」を理解し、種々のストレス対処法などによって精神的な安定を得ます。さらに、健康的な食習慣やR/Sの仲間同士の支えあいは、健康を保つ大きな要因です。これらがどの程度健康に寄与するのかを見てみましょう。

 

1.R/Sが勧める食習慣の意義

いくつかの宗教や宗派は、かなり厳格な食習慣を勧めますが、それらは本当に健康に良いのでしょうか。代表的なものを2つ紹介します。

 


キリスト教系のある宗派は、聖書の教えをもとに禁酒や菜食を厳格に守る人が多く、長生きで有名です。そこで、菜食を厳格に守る信者と魚や肉も食べる信者を比較したところ、菜食者は7〜10年寿命が長く、心臓病、糖尿病、がんなどの生活習慣病が少なかったのです(図1、JAMA Intern Med 2013;173:1230-1238)。

 

しかし菜食は、肉や乳製品に含まれるビタミンB12、鉄、亜鉛、たんぱく質などの栄養素が不足しやすいのが欠点です。また菜食を厳格に守ろうとすると、せっかくの食事を楽しめず、肉類などを食べた時の罪悪感に苛まれ、うつ傾向が強いなどの報告もあります(BMJ Nutr Prev Health 2025 Jun 3;8)。菜食による心身への影響は、男性のほうが大きいようです。

 

イスラム教の信者は、毎年1か月間、日の出から日没まで飲食をしません(ラマダン)。適度な断食は血糖値やコレステロール値を安定させ、肥満を改善し、健康に良いことが示されています。ですがラマダンでは、脱水や栄養不足の危険とともに、断食時間の前後にたくさん食べるので、胃の不調を訴えたり体重が増える人もいます。健康状態は周囲の社会情勢や医療衛生環境などにも左右されるため一概には言えませんが、必ずしも良い人ばかりとは限らないでしょう。

 

R/Sに基づく菜食や断食は、それを厳格に守る人は多いですが、非宗教のものより良いというデータは、調べた限りではありません。私はMOAの食事法の考えをもとに、新鮮な野菜と米を中心としつつ、おいしい魚や肉を肴に、献立に合う酒を適量飲むのが何よりの楽しみです。バランスの良い食事を適量、楽しみながら取ることが、健康に良いと実感しています。

 

2.R/Sのコミュニティへの参加は健康に良い?

本コラム20では、夫婦や地域コミュニティの絆が心身の健康を促すと述べましたが、R/Sのコミュニティの絆はどうなのでしょうか。

 

米国からのR/Sと健康に関する多くの論文では、R/Sと関係する活動に頻繁に参加する人は、心身の健康度が高かったと報告しています。中には死亡率が約25%も低下した(Am Psychologist 2003;58:36-52)とか、女性で死亡率の低下、男性では入院回数の減少と深く関係した(Eur J Epidemiol 2023;38:281-289)との報告もあります。またR/Sと関係するボランティア活動は、一般のボランティア活動よりも死亡率の低下や身体機能の維持と深く関係したそうです(図2、Voluntas 2024;35:97-128)。

 

ただ、日本や台湾からの報告では、そのような傾向は見られません。どうやら民族や文化、R/Sの違いなどによって、結果は異なるようです。それでも多くの研究結果から、宗教やスピリチュアリティは心と体の健康を促すと言えるでしょう。

 

ちなみにMOAが進めるライフスタイルケアは、上記の健康を促す要素をすべて含んでいます。調査をすれば、MOA会員には健康長寿の人が多いとの結果が出るかもしれません。

 

次回は、MOAタイ財団が協力して、タイ王国保健省直轄のシータンヤ病院で行われた、うつ病に対するMOA美術文化法の効果の研究についてお話しします。お楽しみに。

 

【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。

あわせて読みたいコーナー

PAGETOP