第6回 有機・自然農法が人に及ぼす効果

(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志

 有機農業・自然農法のとりあえずの締めくくりとして、今回は有機・自然農法が人にどんな効果があるのかをお話しします。
 
 食材の違いが人に及ぼす影響を調べるのは、実はかなり難しいのです。毎日の食材の全てを有機・自然農法産物にするのが難しいだけでなく、その人たちと同じ内容の食事を慣行農法の食材で食べ続けた人と比較する必要があります。さらにやっかいなのは、食材を同じにしても、それぞれの体質や環境などによって結果がばらつくのです。
 
 こうした限界をご承知の上で、以下の研究結果をお読み下さい。

1.国内の研究


 鹿児島大学の園田俊郎名誉教授は、鹿児島県のMOA自然農法と慣行農法の農地を用いて、土壌の違いから人に及ぼす影響まで調査をされましたが、このような一貫した研究は世界初だと思います。
 
 土壌や作物の成分分析では、他の報告と同様に、MOA自然農法と慣行農法に違いが見られました。そしてそれぞれの農地で収穫した作物を用いて、お茶なら一日に1.5リットル、サツマイモなら一日150グラムを、2週間ずつ摂取してもらいました。その結果、MOA自然農法の作物を摂取した人は血液中の抗酸化物質が増えて活性酸素が減少する傾向があったそうです(MOA健康科学センター研究報告集2009;13:17-35)。
 
 (一財)MOA健康科学センターの加藤孝太郎研究員は、人の腸内細菌を長年研究しています。まだ研究途中ですが、主にMOA自然農法の農産物を食している人の腸内細菌は、慣行農法の食材を食べている人の腸内細菌とは異なることが分かってきています。
 
 MOAの関連団体である(公財)農業・環境・健康研究所は、有機・自然農法を研究する数少ない国内研究機関の一つで、環境や生物多様性の研究と共に、自然農法に適した育種の開発を行っています。

2.海外の研究


 欧米では有機農産物を専門に取り扱うコーナーやスーパーがあるので、有機食材が人に及ぼす影響を調べた大規模な研究が幾つかあります。人が有機の食材だけを食べ続けることが難しいこともあって、慣行農法の食材と比べて血液検査のデータや病気の発症率などに差はなかったという報告がほとんどです(Clin Exp Dermatol 2011;36:573-78など)。
 
 でも違いはあるのです。ルドルフ・シュタイナー(1861~1925)をご存じでしょうか。岡田茂吉先生(1882~1955)と同時代の人で、農業・教育・芸術・医学などの分野に大きな足跡を残しました。彼の理論に基づくバイオダイナミック農法は有機農業の語源でもあり、その食材に関して興味深い報告があります。
 
 乳製品の9割以上をバイオダイナミック農法の製品にしている人の母乳は、一般の乳製品を利用している人の母乳と比べて成分が異なり(Brit J Nutr 2007;97:735-43)、乳幼児の湿疹が少なかったそうです(Brit J Nutr 2008;99:598-605)。さらにシュタイナー小学校の子どもたちは、普通の学校の子どもと比べて鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎が少なかったそうです(J Allergy Clin Immunol 2006;117:59-66)。ただしこの違いは、シュタイナー教育・美術・医学などの効果に有機農産物の効果を含めた総合的な結果と考えるべきでしょう。
 
 腸内細菌は最近のトピックの一つで、腸の病気だけでなく、がんや糖尿病、うつ病など、さまざまな病気に関係することが分かってきました。有機・自然農法と慣行農法の作物に含まれる抗酸化物質や食物繊維の量の違いなどと共に、作物に残留する農薬や抗生物質も腸内細菌に影響するのだと考えられます。
 
 腸内細菌を健全な状態に保ち、私たちの健康を守る意味からも、有機・自然農法の重要性が今後さらに注目されるようになるでしょう。

【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。

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