(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志
岡田式健康法の一つである食事法は、生命力あふれる食材として自然農法のものを勧めています。また世界的な傾向として、農薬や化学肥料が私たちの体や環境に及ぼす影響を懸念して、有機農業への関心が高まっています。慣行農法は、農家さんの労働を軽減しつつ十分な収穫量を確保するためだというのも理解できます。そこで、現代科学が慣行農法と有機農業・MOA自然農法の違いにどこまで迫れるのかについて、専門家の話や文献などをもとに、何回かに分けてご紹介します。
1.有機農業と自然農法
イギリスのアルバート・ハワードは、東洋の伝統農法をもとに1940年に有機農業を提唱し、それが世界中に広まりました。現在80カ国以上で、有機農業に関する条例が制定されています。日本では、岡田茂吉先生が自ら試みた化学肥料と農薬に頼らない栽培法をもとに、1935年に自然農法を提唱し、それが全国に広まりました。2000年に制定された「有機農産物の日本農林規格(有機JAS法)」には、自然農法の考えと農家さんの取り組みも反映されています。2006年の「有機農業の推進に関する法律」では、有機農業は化学肥料や農薬を使用せず、遺伝子組み換え技術を利用しない農法とされています。具体的には、良質な堆肥を用い、土中の生物の種類も量も豊か(生物多様性)にすることで、土が本来持つ「作物を育てる力」を発揮させます。
一方、自然農法は、土の軟らかさ、水分、温度などの物理的な特性を適度に保つことで、生物に適した環境を作ります。堆肥を混ぜなくても立派な作物を作るためには、根が地中深くまで伸びることが重要で、その科学的な裏付けは次回にお話しします。
有機農業も自然農法も、土が本来持つ力を生かす農法ですが、有機農業は良質の堆肥を用いることで、自然農法は土の物理的な特性を整えることで、生物多様性を確保すると言えるでしょう。
2.自然農法の土
生物多様性が土の力になる意味を、私は自然農法の水田を見た時に実感しました。水田の水は温かく、ミジンコや藻が無数にいて土が軟らかいのです。隣りの慣行農法の水田は、水がやや冷たくて土は硬く、微生物は少なかったのです。この微生物の種類と数の違いは、作物に大きな影響を持つと確信しました。
写真は、自然農法と慣行農法の水田の冬枯れの様子です。同じ農家さんが耕作しているのに、右側の慣行農法田に比べて、左側の自然農法田は冬でも草が青々としています。雪が降っても、自然農法田の雪はすぐ溶けるそうです。土の温かさがよくわかる話ですね。
土の軟らかさについても、忘れられない経験があります。静岡県伊豆の国市の大仁農場の茶畑に入ると、クッションを踏むように土が沈むのです。金属棒を地面に突き刺したところ、非力な私でも1.5ⅿほどズブズブと棒が入りました。専門家に伺うと、深くまで伸びた根の先端にまで水が浸透し、余分な水分は蒸発するという水の循環、そして土の通気性を保つために、土の軟らかさが重要だそうです。
わが家の庭には何種類かの果樹があり、自然農法でおいしい果物を作ろうと、いろいろ工夫をしています。でも土が固いせいか、苦心してやっと収穫しても、見栄えは悪くて味はそこそこ。自然食販売店・グリーンマーケットMOAの自然農法の果物は、何と立派でおいしいことか! それがこの値段で買えるなんてとため息が出ます。農家さんの土づくりを知るためにも、家庭菜園を始めてはいかがでしょうか。
次回は、土の違いが作物にどんな影響を及ぼすのかをお話しします。
【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。