重要無形文化財「蒔絵」保持者 室瀬 和美 さん

美の感性を養う工芸品を生活に

── 最近、工芸品を使ってもらうための新たな試みを始められたとか。
 熊本県と協力し「椀(わん)だふる くまモン」という、子どもにも大人気のキャラクターをモチーフにデザインしたお椀を作りました。子どもから大人まで幅広く使っていただけるよう、大きさも3種類あります。子どものうちから木のぬくもりを肌で知り、使って楽しむ入り口になってくれればと願ってのことです。
 10年ほど前からは、幼稚園の卒園記念品としてお椀を制作してきました。その椀だけは自分で洗って管理したり、他のものも大切に扱うようになったお子さんもいるそうです。漆塗りのお椀を使いながら、日本文化を肌で感じて育てば、どれほど感性豊かな大人になっていくでしょう。
 私は、四季のある日本の豊かな自然から与えられた一番の財産が、木の器と漆の文化ではないかと思っています。せっかくそこに生まれ育ったのですから、それを享受しながら毎日楽しく、心豊かな生活を送りたいものです。
 時々は美術館に行くなど、非日常のぜいたくな時間を味わうことで磨かれる感性ももちろん大事ですが、日常繰り返される小さなことの中で、絶えず感性を磨き続ける──。そうした日本古来の、日常にある美に触れて感じ取り、感性を高める生活は、普遍的なとても文化度の高い生き方ではないでしょうか。

── 日常を大切にしていきたいものです。ありがとうございました。

むろせ・かずみ
1950年東京都生まれ。創作の傍ら、国内外で文化財の保存修復や模造制作、その指導に当たる。2008年、重要無形文化財保持者に認定、紫綬褒章受章。(公社)日本工芸会副理事長、(公財)岡田茂吉美術文化財団代表理事などを務める。最新の作品集『室瀬和美作品集』(新潮社)には、普段使っている漆器の写真や、工芸についての文化人との対談も収録。

この記事は機関誌『楽園』57号(2014秋)に掲載したものです

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