長所を見、触れて味わう日本の美
「美は人の心を柔軟にさせてくれる最たるもの」。そう語る、重要無形文化財「蒔絵(まきえ)」保持者(人間国宝)の室瀬和美さん。心が柔軟になれば余裕も生まれ、いろいろなものを感じ取りやすくなるという。併せて「手で触れること」で得られるものの大切さも強く感じるという。
(公社)日本工芸会副理事長、(公財)岡田茂吉美術文化財団代表理事などを務め、海外でもさまざまな活動を展開している室瀬さんに、日本ならではの美の文化と、それらが育んでくれるものなどについて伺った。
── 日本人は見えないところにも美しさを求めるなど、独特の美意識があるといわれます。
美術の世界で考えてみると分かりやすいと思うのですが、あえて人間の心の醜さを描き出すのではなく、美しい面をクローズアップしていますよね。良いところを見つけ、表現し、見る人の心を和ませ豊かにしてくれる、それが日本の美の原点だと思います。
もう一つの大きな特徴は、物にじかに触れてめでる文化があることです。工芸品のように、直接手に取ってその質感などを肌で感じ取る楽しみ方です。この手で触れるという行為が、日本人独特の感性を養い、高めたのではないでしょうか。
私は、五感の中でも特に触感が大事ではないかと思っています。質感や温度、重さなど、見た目では分からないことも伝えてくれます。肌で感じ、感動を伴って体で覚えたことは心の奥深くにまで届き、幾つになっても忘れないものです。
── 物にじかに触れるのは、日本独特の文化なのでしょうか。
そうだろうと思います。西洋には、美術とは絵画や彫刻など見るものであって、使うものは美ではないという価値観がありますが、日本では工芸品に触れてめでる文化が、ごく自然に美の世界と人々の暮らしを結び付けてきたのではないでしょうか。
国宝級の芸術作品としての器も、毎日使う器も、どちらも同じく工芸品。普段使いのものの延長に美術的価値の高い作品があるのであって、崇高な美術の世界と日常は、決してかけ離れたものではなく、つながっているのです。
世代を超えて修理を重ね、大切に受け継ぐもの、年中行事など特別な時だけ使うもの、毎日気軽に使って壊れたら新調するものと、使い方にも楽しみ方にも豊富なバリエーションがあるのも、日本ならではです。