社会に健康の輪広げるコミュニティー構築を
── みんなが協力して、健康を目指すということですね。
先ほど、セルフケア意識の高まりについて話しましたが、長年の生活習慣を改めるためには、セルフケアだけでは限界があります。誰かの助けやアドバイスがあれば励みになり、継続しやすくもなるでしょう。
今、病気に苦しんでいる人、それを乗り越えて頑張っている人、支えているご家族たち。皆さん、たくさんのノウハウを持っています。アメリカでは、がんサバイバーといわれるがんを克服した人たちがボランティアとして、病院でがんの患者さんから相談を受けたり、自らの体験に基づいたアドバイスをしたりしています。
一人の患者さんを支えるために、医療従事者、各種ボランティア、サバイバーなど、違うスキルを持った人たちが協力しながらやっていくシステムが理想です。さまざまな年代や立場の人が集うほどに、多くの知恵が結集されます。相互に連携した幅広いコミュニティーが構築できれば素晴らしいと思います。
まとめますと、急性期を乗り切るためには、病院を中心とした治療が必要です。後遺症をできるだけ最小限にとどめるというのが、病院に課せられた医療モデルでもあります。
その後の慢性期には地域コミュニティーに戻り、しっかりしたリハビリを受けて、まずは社会復帰を目指します。そこで終わりではなく、相談や生活支援を継続して支えていくのが、社会モデルの部分です。この互いのモデルが連携しながらやっていく、という考え方です。
── 二つのモデルが連携することで、一人の人の健康の維持・増進や、より良いコミュニティーづくりに力を発揮していくのですね。
確実に増えてくる認知症や介護に関する問題を考えると、これからの医療に地域社会の助け合い、支え合いは欠かせません。国や自治体、そして医療機関もしっかりとそこに関わりながら、健康の輪を広げていきたいものです。
── ありがとうございました。
いとう・としのり
大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座特任教授。医学博士。1977年大阪大学医学部卒業。専門は膵臓(すいぞう)移植。カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部外科、テキサス大学ヒューストン校医学部外科に留学。(一社)日本統合医療学会業務執行理事・エビデンス創生委員会委員長、(一社)エビデンスに基づく統合医療研究会理事長なども務めている。
この記事は機関誌『楽園』64号(2016夏)に掲載したものです