黒ボク土における自然農法

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富山県  M・Kさん(63歳、女性

〔化学肥料や農薬を使わない畑と田んぼづくり〕

 私がこの兼業農家の家に嫁いできたのは40年前で、今は亡き義母と一緒に約3反の田んぼと約1反の畑でお米と野菜を作っていました。
 私の実家も農家だったのですが、嫁ぐ前から農業に対して、ある思いがありました。それは、農家のみなさんが化学肥料や農薬を使っているのを目にするたびに “何で食べるものをこんなに消毒したり、化学肥料を入れないと食べれんがやろ”という疑問でした。
 嫁いで2年ほど経った時に、義母から化学肥料や農薬を使わない自然農法をしているお宅があると聞き、一緒に訪ね、畑や田んぼを見せていただきました。綺麗に真っ直ぐ伸びたダイコンが印象的で、「じゃぁ、ウチの畑も自分たちが食べる分だけでもやってみようや」と、わが家でも作り始めることにしました。田んぼについても、氷見市に出かけた義母と夫が、自然農法のお米を使用したお昼を御馳走になり、その美味しさに感動して、昭和49年から自然農法で米作りを始めました。
 最初は試行錯誤の連続でした。自然農法をされている農家さんの家に何度も行って話を聞いたり、見たりして勉強しました。私の地域の土壌は粘土質ではなく黒ボク土(火山灰土と腐植土で構成されている土壌)なので、農業をするには痩せやすい、力のない土で、本当に化学肥料や農薬を使わないで米や野菜が作れる土壌なのかと、考えさせられることもたびたびありました。
 それでも現在は、お米は1反から5~6俵がとれ、約半分を自然食のお店に卸し、残りの半分を縁故米として親戚や家族に届けています。周りの農家さんは1反から8俵ほどとれると聞きますが、私たちは化学肥料や農薬を使っていないので、その分経費がかかっていません。稲も、猛暑や冷夏などの気候の変化にも比較的強くなったと感じています。また、悩んでいた土の性質も、この数年は黒ボク土特有のバラバラ感が目立たなくなり、粘りけが出てきて、田んぼを歩いていても弾力性が出てきたなと感じるほどになりました。

〔こだわりの土づくり〕

 自然農法のポイントは「土は生きている」という考え方です。また、本来、土そのものは、作物を育てる力をもっているので、その力をいかに発揮させるかということを大切に考えて土づくりをしています。
 自然農法に切り替え土づくりが進むに従って、田んぼに使っていた化学肥料や除草剤、畑に使っていた鶏糞や油粕の肥料はやめて、山の落ち葉と米ぬかをサンドして熟成させたものや、夫の作った大豆の屑豆(くずまめ)、畑やまわりの草を使って堆肥にしました。また、田んぼの除草対策は手取りはもちろんのこと、葦や米ぬかを使ったり、田車(たぐるま)を使って対処してきました。
 土づくりにはこうした目に見える努力が半分と、目に見えない努力が半分、それぞれ必要だと私は感じています。つまり、“消費者の方々のために美味しいもの、安全なものを作りたい”といった農家の心の持ち方が欠かせないと思っています。“いっぱい採ろう”“いっぱい売ろう”と思っても土が応えてくれないように思います。食べた人が美味しいと思ってくれるようにと願って作物を作れば、採れたものにも、その心が形や味となって反映されていくはずです。土づくりをする上では、このようなこだわりを持って長年やってきました。

〔「エコの畑と田んぼ」の見学会〕

 平成22年6月のことです。一緒に暮らしている下の孫が通っている小学校の担任の先生から私宛に電話がかかってきました。先日、孫が授業で「ぼくの自慢、わたしの自慢」というテーマで作文を書いたそうなのですが、孫が「ぼくの自慢はおじいちゃん、おばあちゃんのエコの畑と田んぼです」と発表したとのことでした。正直、びっくりしました。小学生2年生ですから、もっと子どもらしいというか、自分の好きなおもちゃとかを自慢してもいいのに、それが私たちの畑と田んぼだと発表したことに、おかしくもあり、目のつけどころが違うなと感心しました。
 そして、担任の先生から「お孫さんのこの作文を見て、私はすごく心に残ったのです。ぜひ、見学をさせて欲しいのですが」とお願いされました。孫が通う小学校は、地域で働く人たちとの交流学習を行っているとのことで、6月10日に「まちのすてきを見つける探検隊」と名づけた2年生14人と担任の先生、校長先生がわが家の畑と田んぼに来ることになりました。
 見学会当日は、畑に植えている10種類ほどの夏野菜を見てもらったり、堆肥は山の落ち葉や大豆の屑豆など自然にあるものを使っていることを紹介しました。田んぼでは、畑と同様、農薬を使わないで育てていて、この時期の水草などは米ぬかを蒔いたり、田車を押したりして除草していることを紹介しました。
 小学2年生ですから、野菜の名前を知らなかったり、実が成っていなければ野菜の名前と苗が一致することはありません。ですから、一つ一つの野菜の名前を教え、何月頃に実が採れるのかを話しました。私にしてみれば、それほど種類も量も多くないと思うのですが、子どもたちは「こんなに野菜の種類があるんだ」と喜んでいました。
 この日は、まだサツマイモの苗を植えていなかったので、見学会の予定にはありませんでしたが「みんなで植えてみる?」と聞くと「植えたい、植えたい」と言ってくれたので、全員でサツマイモの苗を植える体験学習もできました。
 後日、見学会の内容をまとめるということで、私はゲストティーチャーとして小学校に招待されました。「エコの野菜」という言葉が耳新しかったのでしょう。授業では、どういうものがエコなのかを話し合い、先生が黒板に書き留めていました。ゲストティーチャーも話をさせていただくことができて、私は土づくりの大切さを伝えようと「野菜は土から生れてくるの。だから土って大切なんだよ」と話しました。
 しばらくして、感想文をいただきましたが「畑に食べられなくなった大豆や米ぬかを蒔いているのがエコだと思いました」「田んぼは草取りの古い機械(田車)がエコだと思います」「草取りの仕事は自分で動かしているから相当大変だけどエコだと思いました」などと書かれていました。また「ミニトマトは実が多くてすごいと思いました」「普通のタマネギは知っていたけれど、赤紫色のタマネギは初めてでした」「ゴーヤがあるとは思ってもいませんでした」「ジャガイモの花が沢山咲いていてすごいと思いました」など、いろいろな発見をしてくれたようで嬉しく思いました。

〔孫の夏休みの自由研究〕

 7月下旬、夏休みに入ると、息子と孫たちが自由研究の話をしていました。上の孫は決めていたのですが、下の孫が決められなくて困っているようでした。しばらく話を聞いていると、「僕、何したらいいか分からない。ばあちゃんの畑に行ってくる」と言い、息子と一緒に畑に出かけました。それからも、時々親子で畑に行っていました。また、孫は私に畑の話を聞きに来て、メモをすることもありましたが、この時はまだ何をしているのか分かりませんでした。
 自由研究の内容を知ったのは、夏休みが終わった9月でした。ランドセルに入りきらない画用紙を抱えて帰ってきた孫に、私は「何を持っているんや?」と声をかけると、「夏休みの宿題や」と言って、見せてくれました。
 「夏野菜の研究」というタイトルで、画用紙4~5枚に畑の観察記録がまとめられていました。最初に畑で作っている野菜の名前とカメラで撮影した写真が貼ってありました。その次のページには、「野菜づくりで楽しいと思ったことは植えた野菜を毎日見に行って大きくなっていることが嬉しい」「一番上手に作れた野菜はトウモロコシで、堆肥を与えて草取りを一生懸命したら大きくなりました」など、私から「取材」した内容が書かれていました。また、最後には「畑はまるでジャングルのように、草が想像できないくらいいっぱいありました」との感想まで書かれていました。
 自由研究の内容を見て感動しました。私が日記つけができない分、孫が代わりに整理してくれたと思って嬉しく思いました。私は孫に「これ、おばあちゃんに貸してくれない?」と言うと、「ママに聞いてみる」と言い、夜に孫と嫁が「プレゼントしたい」といって、もらうことができました。

〔日本の農業について〕

 日本の農業の現状を見ると、高齢化や後継者不足で農業が縮小されてきています。耕作放置をしている休耕田も目立つようになりました。このように農業が衰退している中で、日本の政府が参加の意志表示をしているTTP(環太平洋経済協定。貿易関税について例外品目を認めない形の関税全廃などを目指す経済的枠組み)という形が生れてくると、日本の農業がますます変わってしまうのではないかと思います。
 自然農法を始めて36年になりますが、こういう時だからこそ、改めて農業の大切さ、自然農法の素晴らしさを伝えていかなければ、今の農業の危機的状況を変えることはできないと実感しています。
 今回の出来事を通して、子どもたちに少しでも私たちの農業に対する思いを伝えることができました。とても素直で感受性が高く、スポンジのように何でも吸収していく子どもたちに、これからも少しずつですが、日本の農業の大切さや素晴らしさを伝えていければと思っています。

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