自然農法で土がフカフカになる

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石川県  Y・Kさん(73歳、女性)

〔自然農法との出合い〕

 私は、今から15年ほど前に自然農法を知りました。N市の自然農法普及会事務局長であるSさんをはじめ、多くの方々よりアドバイスをいただき、お金や労力をかけない方法を考えつつ、今日まで「土づくり」をしてきました。そうしているうちに、だんだんと野菜がよくできるようになり、作っている私も楽しくなり、さらにはおいしい野菜を通して家庭内が明るくなり、家族全員の距離がより近くなっていることに気づきました。
 私の家の隣には一反歩強の広さの畑があります。当時は慣行農法の畑で、私も勤めながらの片手間であったため、すぐに草が生い茂り、とても畑とは言えない状態でありました。また、畑の3分の1は、家を増築する際に掘り出した土を盛り土していたので、粘土質で石ころだらけであり、何とか改善したいという思いがありました。
 平成5年、自然農法普及会が発会した時、以前から親しくしていたSさんに誘われて構成員となりました。私はまだ会社勤めをしていましたが、翌年が退職だったので、それからは畑でいろんなものを作っていこうと楽しみにしていました。
 Sさんからは、自然農法にすると土質が変わってくるという話を聞き、まず私は堆肥づくりから始めました。
 手がけたのはモミガラ堆肥作りでした。普及会の方々から教わりながら一緒に作り、畑に利用しました。また、家の目の前にある、夫と息子が稲作をしている水田から出るワラを米ヌカと混ぜて発酵させ、できた堆肥を翌春、畑にすき込みました。すぐには変化がありませんでしたが、粘土質の土の水はけが少しずつ良くなってきました。

〔自然農法の土づくり〕

 転機となったのは平成10年、見聞を広める意味で隣町のM普及会を訪ねた時でした。
 小高い山の上で、水の便も良くない場所にある畑で、私と同年代の方々が素晴らしい野菜を作っていらっしゃいました。スイカ、メロン、キュウリなどの野菜や漬物がおいしく、また小屋の中には見事に揃った、ちょうどよい大きさのタマネギがびっしりと吊るされていました。私のタマネギは、吊るした紐から1つ、2つと落ち始めているころでしたが、そこでは1つも落ちないとのことでした。さらに、有機物確保(緑肥)の目的で設けてある草の畑もありました。見るもの食べるもの聞くことすべてに感動し、自然農法の素晴らしさを実感して帰りました。そして「私もこんな野菜を作りたい!」と強く思い、自然農法への意欲が高まりました。
 私の家の近くには、高齢化のために耕せなくなった人の田んぼを引き受けて作っている請負耕作農家が3軒あります。秋になると、その作業場のそばには、モミガラが山積みになります。私はそれをもらい、畑の一角を利用して米ヌカと混ぜ、堆肥作りを始めました。ところが、乾いているモミガラを十分湿らすだけの水を運ぶのが大変な労力でした。しかも、完熟するまでに2~3年という長期間を必要としました。
 そこで、平成16年からは新しいモミガラではなく、側溝に何年も前から下積みになっているモミガラを使うようにしました。側溝の中のモミガラは水分を含んでおり、醗酵しており、暖くなっています。それを集めてきて納屋の隅に米ヌカと混ぜて積んでいます。これだと作業がとても楽でした。また、これまで根菜類に利用していた、畜産農家からもらった完熟の牛糞堆肥はやめました。さらに、畑のまわりに生えているススキを夏のうちに刈り倒しておき、通路の被覆に使うようにしました。
 このようなことを繰り返しているうちに、平成17年ごろから粘土質だった土がだんだん柔らかくなり、フカフカしてきたことに気づき、野菜も元気になってきました。

〔おいしいトマトを実らせた落ち葉床〕

 平成18年からは、月に1回普及会のみなさんと自然農法の勉強会を持とうということで、自然農法普及員の指導を受けています。その中で、「認可資材に頼るのではなく、土の力を生かすのが自然農法」との説明がスッと入ってきました。
 早速、その時に提案していただいた、土が温まり、根伸びが良くなるなどの利点がある落ち葉床に挑戦しました。30~40㎝の深さに掘った溝へ、吹き溜まりにあった比較的新しい落ち葉を5㎝厚で敷き詰め土を戻しました。さらに畝には、同じく側溝の下層部に溜まり、ほとんど土になっている腐葉土を混ぜ込みました。比較できるように落ち葉床は作らずに腐葉土だけ混入した畝も作りました。これ以外の有機質肥料などは一切混ぜませんでした。
 そして両方の畝にトマトを植えたところ、6月から7月にかけて落ち葉床のない方では7本中4本が青枯れのような症状で枯れたのに対し、落ち葉床の畝では病気に罹ったものはなく、7本全てが最後までおいしいトマトを実らせてくれました。落ち葉床で水はけが一層良くなってきたことも要因のひとつだと思います。

〔美味しくなった野菜〕

 このように「土づくり」が進んでいくと、2~3年前からいろいろな変化に気づき始めました。まずは野菜の味です。ナスは柔らかくて艶があり、ジャガイモはホクホクして、ダイコンも柔かく、ブロッコリー・カリフラワー、生で食べる野菜も甘味があるように思います。一番みんなに喜んでもらえたのはキュウリです。野菜がおいしくなり、みんなに喜んでもらうと私も嬉しくなってきます。
 以前は、草取りや肥料やりのことを思うととにかく畑に出るのが億劫でした。家の隣に畑があるにもかかわらず、なかなか腰が上がりませんでした。そのため常に畑仕事に追われる状態でした。ところが、自然農法に変えて、土が柔らかくなり、フカフカになってくると、不思議と以前ほど草も生えなくなり、生えていても土が柔かいので気持ちよく抜けるため、作業が楽になりました。また、以前より手間がかからなくなってきました。こうなってくると、朝目が覚めると“畑に植えてあるものがどうなっているかな”と気にかかり、すぐ見に行きます。畑から元気をもらい、それをまた畑に返していくというリズムに充実感を感じています。今日はあれをしてこれをしてと、心楽しい毎日です。

〔家族との会話が増える〕

 このような私の気持ちが家族にも反映しているのでしょうか、家庭内が以前にも増して明るくなってきたことに気がつきました。嫁が職場へキュウリを持って行き、弁当の時間に食べてもらったらおいしいと言われたので「また友だちに持っていってあげます」とか、「生で食べる野菜がとてもおいしいから、お世話になっている人に持っていってもいいですか?」と話しかけてくるようになり、今までより会話が増えてきました。特に今年に入ってから嫁との距離が一段と縮まったように思います。
 また、素直に私を褒めることのなかった夫が、「このキュウリはビールのつまみに最高だな」とか、「ばあちゃんの作ったダイコンは柔らかくておいしいな」などと言ってくれるので驚いています。息子も生野菜をバリバリ食べますし、孫たちも「これ、ばあちゃんが作ったの?おいしいね」と食べています。孫たちは、私と一緒に畑で遊ぶのが大好きです。種を播いたすぐ後の畑で砂遊びをしたり、なり始めたばかりのキュウリを採ったりして時々困ったことをしますが、楽しい時間を過ごしています。
 このように家族との会話が増え、ほんとに明るくなったなぁと感じています。
 また、昨年の夏ごろからそれほど多くの量ではないですが、地元の百貨店にも出荷することとなり好評を得ています。

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