男の料理教室

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東京都  O・Mさん(63歳、女性)

〔料理教室を市にサークル登録する〕

 平成17年のことでした。食セミナーにも何回か参加しておられるI市議から「こんなに良いことをしているのに、もっと社会の人たちに知らせなさいよ」と励ましてくださり、市に料理教室としてサークル登録をし、私も講師として行政登録手続きをしました。
 その間、市の公共施設などで食セミナーを定期的に開催してきました。参加者から「料理が好きになった」などと喜ばれてきましたが、中でも体調を崩されていた方が元気を取り戻されたお姿を通して、食のもつ大きな力を感じました。
 平成20年8月になってサークル登録してあった料理教室に初めての申し込みがあり、さっそく実施致しました。感じのよい50~60代の女性が2人参加されて、楽しんで帰られました。
 12月に入って、「A会」の代表者から「男の料理教室」の講師依頼があり、お会いして打ち合わせすることになりました。代表者の方は1年間の期間で行なわれる市健康課が主催する「男の料理教室」の卒業生で、これからも続けて料理を習いたいと「A会」を設立されたそうです。健康課に相談したところ、ボランティアで講師を受けている私たちを紹介されたのだと言われました。
 市では、市民の健康づくりと、豊かな心を育む食育を推進するために「食育推進計画」を作り、市民参加を呼びかけておられ、健康課が主催する「男の料理教室」もその一つです。

〔会場の雰囲気づくりを試みて〕

 「A会」の方々は13名で、定年後の男性のグループです。何名かは健康課の「男の料理教室」を経験しておられましたが、ほかの方は料理の経験がなく、包丁の持ち方、米の研ぎ方、計量スプーンの使い方からのスタートでした。
 男性だけのグループなので少し緊張しましたが、まずは“楽しく食べていただけたらいいな”と思い、ランチョンマットを用意して、各食卓に一輪の花をいけ、会場の雰囲気づくりを試みてみました。
 料理を作りながら「一品を作るのにこんなに行程が多く、時間がかかるんだな」「奥さんに感謝だな」と言われながら、料理づくりが進みました。
 ランチョンマットの上に自分たちが作った料理が並び、一輪の花を見ながら味わうと、「料理屋さんに来たみたいだね」と調理室の雰囲気が変わり、和気あいあいと食べていただくことができました。一輪の花はお帰りの際に持ち帰っていただきます。

〔新たにB会の講師依頼を引き受ける〕

 「A会」での料理教室を2回実施したころ、市の健康課を通して新たに「B会」の講師を依頼されました。今度のグループは30名と聞き、これには私も躊躇してしまいました。“30名分の食材をどうやってわが家の冷蔵庫で、セミナー当日まで保管することができるのだろうか?”ということが頭に浮かんできました。一緒に進めているUさんに相談したところ、「勇気を出して一歩踏み出してみましょうよ」と背中を押してくださったので、私も気持ちが固まり、お引き受けすることにしました。
 「B会」はすでに3年ほど料理教室を経験している方たちでした。当日、私たちは30名の料理教室はどうなることかと思いましたが、材料の計量から調理の手際も手慣れておられ、私たちの心配はどこかへ吹き飛んでしまいました。
 会場は少子化のために現在は使用されなくなった小学校を活用した公民館です。調理室は食卓を兼ねた調理台とガス台が6台、窓際に90㎝角のシンクが数台あり、明るく開放的です。シンク台が低く、男性が腰をかがめて、また椅子に腰掛けて高さを調節して器具や食器などを洗っておられる姿は微笑ましくさえ感じます。
 運営を各班が輪番制で行い、月当番は食材の仕分けから実習後の戸締りの確認やゴミの持ち帰りまで行なわれます。包丁を研ぐ名人や、本格的に野菜を栽培しておられる方など、それぞれの特色を生かして楽しくやっておられます。

〔豊かな家庭は心のこもった料理からをモットーに〕

 最初に受けた「A会」が第2水曜日、後から決まった「B会」が第3木曜日と1週間ずれての開催で、私たちにはちょうどよいローテーションになっています。
 これらの料理教室をスタートする前に、必ず代表者の方と打ち合わせを行ないます。私たちは、「豊かな家庭は心のこもった料理から」をモットーにしています。自然農法で生産された新鮮な旬の食材を使うことに、大変な関心を持っていただいています。また、うす味に心がけ、食べ物と作る人に感謝しながら、お米や野菜を中心に伝統食である日本料理を中心にした健康づくりに役立つメニューで進めることを確認させていただいています。
 参加しておられるみなさんの声を伺うと、
○自分が料理をするようになってからは、妻の作ったものに対して「おいしい」とか何かしら声をかけるようになりました。また食後は皿洗いの担当を自然にするようになりました。
○週に一回はわが家で料理をつくる担当になっており、張り切ってやっています。褒め殺しに合いながらも、実に気分が良いです。
○1週間に1回、孫がわが家に遊びに来て、一緒にギョウザを作ったりしています。孫もとても喜ぶし、私も嬉しい。教育にもよいと思います。
○私の作った料理を食べた妻から「おいしい!隠し味は何?」と聞かれたり、「私の苦労も分かったでしょ?」と言われたりして、夫婦の会話も弾むようになりました。また、今まで興味がなかったテレビの料理番組も一緒に見るようになったり、料理塾のおかげですね。
 等々ですが、「豊かな家庭は心のこもった料理から」が、そのまま拡がっているようで、みなさんの声を聞いて、一層やりがいを感じています。

〔市の食育にボランティアとして協力することの喜びを〕

 平成21年5月、市長と懇談する機会がありました。後日、市長から「料理を習い、家庭に帰って家族に料理を作る。それがキッカケになって家族の結びつきが深まり、地域の中のコミュニケーションが増え、食を通して生活そのもののあり方を見つめなおす機会になってほしい。市民のみなさんが手を携え、協力して『食育』を進める姿こそが、本来の市民自治の姿です。市もその輪を拡げるべく応援してまいります」と、嬉しいコメントをいただきました。
 その後、市の広報誌に「食育推進員」を公募することが載っており、早速申し込みました。先日、有識者5名と公募の市民3名による初会合が行なわれました。市の進めようとする「食育」を住民の草の根運動として協力させていただき、市民が豊かで健康に暮らせる街づくりに貢献させていただきたいと願っています。

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