静岡県 N・Kさん(72歳、女性)
〔塾でのこだわり〕
私は、約30年間、個人で学習塾をほぼ毎日開いています。
塾に通ってくる子どもの年齢層は、国立大学の付属小学校、中学校、高校を目指す、いわゆる“お受験”の子どもたちです。
塾のあり方について、私はこだわりがあって、子どもたちにはイスではなく畳に正座して勉強してもらっています。また、必ず、子どもたちには、「朝ご飯は何を食べましたか?」ということを聞いています。また、毎週土曜日には子どもたちに私が作った自然農法米などを使用した食事を夕食に食べてもらっています。
塾を始めてからしばらくは、毎年合格率100%という状態が続いておりましたが、ここ5~6年の間は、時折、不合格の子どもが出るようになってきています。
朝食にパンやコーンフレーク、あるいはプリンやイチゴといった食事が増えてきたころと、合格率の低下とが同時期であることが分かってきました。これには、私自身も大変驚いています。
例えば、パンやデザートのようなものが朝食だったり、おにぎりを食べたと言う子どもでも、よく聞いてみると、前日の夜コンビニで買ってきたものだったりします。もちろん、手作りの朝食を家族と一緒に食べている子どももいますが、朝食を作らない家庭が多いようです。
〔素行が乱暴なA君が入塾してくる〕
平成17年2月、数人の幼稚園児が入塾してきました。
私はしばらくこの子どもたちを観察する中で“今年の子どもたちは課題が多い”と感じていました。その中でも、ひときわ目立って素行が乱暴なA君がいました。
A君は、頭は良いのですが、落ち着きがなく、また、友だちを殴ったり蹴ったり、さらには「こんな問題もできないのか」と暴言を吐いたりという状態が続いておりました。
私は、このような子どもたちに躾や教育をしていくのが自分の仕事だと意識して、根気よくコツコツと取り組んでみました。しかし、数ヶ月を経過しても、A君は一向に変わる様子もなく、初夏を迎えるころには、塾の中でついに「悪い子」のレッテルが貼られ、私も手を焼くようになりました。
何とかしないとほかの生徒にも影響が出るので、7月に入って、私はA君の母親にしばらくの間、塾に同伴してもらいました。しかし、それでもA君の様子はほとんど変わらず、いよいよ手がつけられない状態が続き、同伴していた母親も、「ついているのもいや」とあきらめてしまう状況でした。
この時、“A君はもう付属小学校の合格は無理かもしれない”と感じました。
私は、塾をはじめて以来、一貫して岡田式健康法の小冊子「食事法と運動」の中から、『日本人は、米を主食とするのが本当である』の一節を意識して伝えるようにしています。そのため、A君の食生活について聞いてみました。すると、A君の家庭では、朝食は毎日がほぼパンで、ほかに牛乳、スープといったメニューでした。早速、A君の母親へ「朝食をご飯と味噌汁に変えてみたら?」と提案し、自然農法で生産されたお米が良いこともお勧めしました。母親も仕事を持って忙しい様子でしたが、わが子の塾の姿を見て、何とかしたいと思ったのでしょう。私の食事に関するアドバイスを聞き入れてくださり、早速、翌朝より、ご飯と味噌汁に一品を添える朝食を始められました。7月初めのことでした。
〔「ご飯と味噌汁」でA君の態度が変わる〕
3ヶ月後の10月に入り、塾で描くA君の絵に変化が出てきました。
それまでA君に絵を描かすと、必ずカードゲームの「ムシキング」の絵でした。また、「前と違う絵を描くように」と言うと、カブトムシがクワガタムシに変わるだけで、その上、色合いも黒と茶色ばかりを多く使っていました。ところがこのころより、突然絵の題材が様々なものに変わりだし、色使いもとても明るくなってきたのです。一般的には、子どもが描く絵や色使いにはその子の心の状態が表れると言われています。
例えば、親から度々叱られている子どもは、絵はだんだんと小さくなっていき、ストレス状態だと青や黒ばかりの寒色系が中心となる傾向があります。
ですから私は、A君も確実に良い方向にきていると感じていました。
その後、A君は、12月になると、さらに態度が大きく変化し、「優等生」になってきました。態度に落ち着きが出て、過去のような問題行動も起こさないようになりました。私はあまりの変わりように「なぜそんなにいい子になったの?」と聞いてみましたが、A君はただニコニコして「うん」と言うだけでした。この時、朝食をパン食のメニューからご飯と味噌汁に換えて、6ヶ月が経過していました。
〔ほかの子どもへの拡大〕
A君が変わることで、これまでそれほど目立っていなかった、B君とC君の態度が目立つようになってきました。
この2人も、とにかく落ち着きがなく、2分間もじっとしていられない子どもたちでした。朝食について聞いてみますと、2人ともチョコレートパンやクリームパンといった菓子パンで朝食を済ませていました。
A君の劇的変化は、この2人の子どもの母親たちにも知れるところとなり、2人の母親は、「どうしてA君は変わったの?どうしてあの子は優等生になったの?」と聞いてきました。私は、A君の朝食による変化に「間違いない」と、2人の母親をはじめ、ほかのお母さんにもご飯と味噌汁の朝食を勧めました。
1月に入って、2人の母親に自然農法で栽培されたお米を分けてあげました。B君の母親は、早速朝食を換えました。するとその子は間もなく落ち着いてきました。しかし、C君の母親は、「そんな、食事を換えたくらいで子どもの態度が変わるなんて」と考えたのでしょう、すぐには行動に移さなかったようです。
しかし、そのうち朝食を「ご飯と味噌汁」に換えられましたが、その結果は、A君、B君同様に徐々に落ち着き始め、志望校にも見事に合格することができました。
〔朝ご飯の大切さが保護者にも伝わる〕
A君の母親は、「先生に(ご飯食を)勧めていただいて良かった。子どもがすっかり変わりました。こんなに変わるなんて」と喜びを語られ、また「子どもに同伴するのが楽しみになってきました。父親も今では怒らなくなりました」と、心から感謝しておられました。
こうした出来事がほかの母親にも伝わり、「朝ご飯って大切なのね」と、朝食をご飯食に変える家庭も出てきています。
また、子どもの姿が親や家庭に大きく影響を及ぼして行くことも身近に見ましたので、両親には食の大切さを分かってもらいたいと最近強く思うようになりました。
この事実を通して、「ごはんを主にして食べる」「七分づきのごはんを食べる」「肉よりも野菜を多く食べる」などを挙げているMOAの食事法を地域に拡大を図ることが本当に必要であると思います。
現在、私の塾に通ってくる子どもの親をはじめ、お友だちを中心に呼びかけ、「食と健康」をテーマに食セミナーを行っています。