家庭菜園から地産地消へ

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山口県  Y・Mさん(62歳、女性)

〔家庭菜園をはじめる〕

 35年ほど前、山口県では徳山湾の有機水銀の汚染問題などの公害が起きていて、私たちの地域も環境問題が非常に話題になっていました。このころ、私の娘たちも幼かったので、安全な食べ物を探していました。娘の離乳食には生野菜ジュースを与えていましたが、ある日ラジオで野菜ジュースは農薬が濃縮されて体に残ると聞いて、“だったら自分で安全な食べ物を作ろう”と思い、家の前の200㎡ほどの空き地を使って家庭菜園を始めました。油粕や鶏糞を使って野菜づくりをしましたが、赤土ということもあって野菜が育たず、肥料代がかさむだけでなかなか上手くいきませんでした。
 そんな中、自然農法のことを知り、無農薬で野菜を作り続けました。化学肥料を使わず草を使って土づくりをしましたが、何年目かにこれまで結球しなかったキャベツが自然と巻き始めました。梅雨の雨でキャベツは腐りやすいと聞きますが、私の作るキャベツは土がしっかりしているのか全然腐りません。ダイコンもカブも、しっかり育ち、野菜自身もワックスをかけたようにツヤツヤとしてきました。

〔自然農法野菜の出荷農家に登録〕

 時が過ぎた平成19年、私は通信教育で「食育指導士」を受講し、無事合格しました。同じころ、MOAのスタッフから山口市に健康生活館が建てられるので、食担当としてボランティアに参加してもらえないかと声をかけられました。そして、「健康生活館やまぐち」は平成19年9月にオープンし、私は月に1、2回、食担当として健康増進セミナーのお料理を担当するボランティアをするようになりました。
 平成20年2月からは新規自然農法実施者研修にも参加しました。きっかけは孫の出産と健康生活館で開催している「健康やさい市」でした。
 健康生活館がオープンしたころ、二女がお産のためにわが家に帰って来たのですが、私は生活館のボランティアで学んでいました「旬の野菜を活かす」ことに心がけて、毎日、家で採れた野菜をたくさん使った食事を食べさせました。お蔭さまで、4000gにもなる男の子が本当に安産で生まれ、産後も母乳は良く出て赤ちゃんの成長も進み、あらためて自然農法の素晴らしさを実感しました。
 この体験からもっと多くの方にも自然農法の野菜を食べてもらいたい、地域に自然農法を拡げていきたいと思うようになりました。そのころ、健康生活館で「健康やさい市」が始まることを聞いた私は、自分の野菜も出荷をしたいと思いました。しかし、「やさい市」で販売するにはMOA自然農法ガイドラインの認証が必要と分かり、「それなら出荷農家として登録したい。地産地消の願いである農家、健康、環境、伝統食を守ることに貢献したい」と研修を願い出て、4月に生産者として登録をしていただきました。
 「健康やさい」市に出荷している野菜の量は時期によって違ってきます。余ってはいけないので、毎回、お店と連携しながら調整して出荷しています。毎週でも出して、消費者の方々に美味しい野菜を味わってもらいたいと思っているのですが、まだ生産者が少ないので、現在は月に1回の出荷となっています。

〔家庭菜園の拡大〕

 60歳という還暦を迎えた平成21年、私はパート先の職場を辞め、家庭菜園の面積を3倍ぐらいに拡げて本格的に自然農法の野菜づくりを始めました。私は職場を辞める時、「仕事を辞めたら野菜のブランド品を作っていくからね」と伝えていました。
 私は料理が好きで健康生活館の食のボランティアをしていますが、そこで出される新しいメニューを知ると作りたくなって、その材料となる野菜を作るようにしています。また、毎年、1つは新しい種類の野菜をつくるようにしていて、キャベツやニンジンなどのほかにトウガラシ、トウガン、ゴボウ、アスパラなどバラエティにも富んでいます。
 今年は、以前、ピーナッツ豆腐を作っている人がいて、作り方を教えてもらったので“よしピーナッツだ。野菜市にもピーナッツは出てこないから、自分で作って、できたらピーナッツ豆腐も作って、みんなに配るぞ”と意気込んでいます。

〔家庭菜園セミナーの開催〕

 平成21年1月のことです。私が畑で作業をしていると、Sさんが声をかけてこられました。Sさんとは顔見知り程度で、以前、農業資材を置いているお店でお会いしたことがあります。私がSさんに「何か野菜を作られるんですか?」と聞くと、「私も作ってるんよ」と畑の話を少ししたことがありました。
 私の畑は近くの道路を通ると見える場所にあります。Sさんは自然農法の看板が気になっていたのでしょう。「これって、Yさんが勉強されて認可を受けたんでしょう?私も学びたい」と言われました。伺うと、Sさんは営農教室で野菜づくりの勉強をしていたそうです。でも「野菜の100円市に出荷するための勉強で、肥料も使うし、自分には合わない。私は無農薬で野菜を作りたいの。セミナーがあれば行くから教えて」と話されました。
 私も以前からセミナーを開きたいと思っていました。平成20年に、3回ほど地域の公民館を借りて、畑で取れる季節野菜を使った料理教室を開きました。私は岡田式健康法の食事法の内容などをお伝えしたのですが、教室に来られる方は自分の家庭菜園の土地を持っていている人がほとんどですので、私は“より安心できる自然農法のことも伝えたい”と思っていました。料理教室の後にアンケートを取ったのですが、「自然農法の家庭菜園セミナーに興味がありますか?」との質問には「望む」「出たい」という意見がありましたので、“いつかセミナーをさせていただかなくっちゃ”と思っていたのです。
 そうした中での出来事なので、私はSさんのためにセミナーをしようと思いました。そして「Sさんのためにやります」と言うと、Sさんは「私だけだと申し訳ない」と言って、周りの方にも声をかけてくださいました。
 セミナーの開催日を決めたところ、健康生活ネットワークのAさんのご主人の提案で「町内の有線電話放送を使ったらどうか」と教えていただきました。思ってもいないお話だったので「お願いしてみようかねぇ。おいくらですか?」と訊くと、「そういう内容だったらお金はいりません。今日は放送のネタがなくて困っていたから、1時半からお宅の畑で録音しましょう」と言って、有線放送の記者の方が取材に来られて、都合3回放送していただきました。本当に信じられないくらい、何の苦労もなくセミナーが開催に向かって進んでいくのに驚きました。

〔このまちで自然農法産の野菜市を〕

 セミナーは、町内の公民館を使って講師にMOA自然農法文化事業団の方にお願いして、2月、3月、4月の計3回の積み上げで開催し、Sさんのほか7名の方が参加されました。
 最初の2回は文化事業団の方から自然農法の考え方を説明していただいたほか、土の生かし方、害虫対策について、文化事業団がある静岡県伊豆の国市の大仁瑞泉郷の紹介などをしていただきました。
 2回目の講義の時“自然農法の農産物をみなさんが食べていないというのはおかしいことだ”と思い、急遽料理をお出ししようということになり、30分の時間をいただいて、7分づきのごはんと味噌汁、主菜として福袋(揚げの中に、銀杏とかお豆腐のミンチ、人参など7種類を入れて、それを炊き込んだもの)をお出ししました。
 Sさんは、1年前に落葉に鶏糞、油粕を混ぜたものがまだ堆肥になっておらず、すでに化学肥料は使わないで自然農法に近い栽培を試していたそうで、「自然農法の話がよく分かった」と言って喜んでくださいました。
 有線放送を聞いて参加したFさんは福祉施設の園長だった方ですが、「自然農法の考え方が介護の世界にも通じる話で良かった」と言ってくださいました。農家のGさんの奥さんは、ご主人が畑をやってらっしゃるのですが、ご自身も「『マイ畑』(家業の畑でなく自分専用の)を持って自然農法でやってみたい、MOAの自然農法の看板があれば立てたい」と言ってくださいました。
 セミナーから数ヶ月経ちましたが、自然農法で作られた農産物がそれぞれのご家庭ででき上がるまで見届けていこうと思います。そして将来はこのまちで採れた自然農法のやさい市をしていきたいと思っています。

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