定年退職後の夫婦のあり方が変わる

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長野県  K・Sさん(63歳、女性)

〔定年退職後に家庭菜園をはじめる〕

 平成19年4月、夫の定年退職を機に、愛媛県から2人の生まれ故郷である長野県に戻ってきました。以前、いとこが住んでいた土地に家を建て、家の周辺にあるいとこの休耕地を夫が少しずつ開墾して家庭菜園をはじめました。
 夫も私も家庭菜園をするなら無農薬の野菜を食べたいという思いがありました。そのため、夫は農薬や化学肥料に頼らないMOA自然農法を実践している地元の普及会に入り、週に一度は自然農法の実施ほ場がある阿南瑞泉郷に行って、苗を買ってきたり、育てたい野菜の作り方などを教えてもらいながら、畑の開墾と土づくりをしながら、野菜の種類を増やしていきました。4年経った今、夫が1人で5アールほどの畑を開墾し、40種類以上の野菜が採れるまでになりました。花壇も作ってくれたので、私はお花を育てはじめ、今では四季折々に30種類以上の花木を見ることができるまでになりました。野菜も四季折々に収穫でき、スーパーではきのこ類ともやしを買えば済むほどです。

〔料理教室での気づき〕

 平成23年1月、MOAのスタッフの方から、料理教室をしたいので協力してもらいたいという話がありました。私は日ごろから何事にも楽しく取り組むように心がけていますが、殊に料理は楽しくできます。季節の野菜が採れれば、ぬか漬けや奈良漬け、みそ漬けなどいろいろな漬け物を作り、来客があればお茶と突出しを用意し、ときには食事も作るなど、普段から台所に立っていて、私にとってそこが一番落ち着く場所になっています。ですから、料理ならばいろいろお手伝いできると思い、協力させていただくことにしました。
 2月下旬、阿南瑞泉郷の近くの調理室を借りて料理教室を開催しました。メニューは阿南瑞泉郷で採れた食材を使った黒豆ご飯、干しぶどうのクレープ、ホウレンソウのピーナッツ和えと、わが家の家庭菜園で夫が作ってくれたジャガイモ(品種:大白)を使ったポタージュです。参加者が13人でしたので、受け入れ側、参加者側という枠組みはなく、みんなで準備しながら作るという和気あいあいとした雰囲気の料理教室となりました。
 わが家のジャガイモを使ったポタージュは好評でした。野菜そのものの味を味わうことができ、手間をかけて作ることで、参加者の方々に発見があったように思います。例えば、ジャガイモ一つとっても、炒めて、煮て、ミキサーにかけて裏ごしをするという手間をかけてポタージュにすることで、普段とは異なるジャガイモの味が楽しめた、時間に追われてバタバタとやる普段の料理とも違う体験ができた、手間をかけることの大切さを知ったなどの声を聞くことができました。
 私も大変満足できた教室となりましたが、自分だけ美味しい思いをしては申し訳ないと思い、その日の夕飯でも同じメニューを作り、夫や義父(平成23年3月28日、96歳で他界)にも食べてもらいました。2人とも「美味しい」と喜んで食べてくれました。
 料理教室を開催する前に、スタッフと何度か打ち合わせをしたのですが、その中で「参加者の変化をよく見つめる」との話が印象的でした。当日は、岡田式健康法食事法についてのミニセミナーもあったのですが、今回の料理教室を通して、参加者一人ひとりに心の変化や言葉の変化、行動の変化、体調の変化、家族の変化などがあったかどうか見つめようと確認しました。そうした思いを持って、料理教室に参加したので、私も参加者の様子をみたり、声をかけて話を聞くことができて、勉強になりました。
 何よりも、私自身が最近、変化してきたように思います。特に、料理教室以来、夫のことを理解できるようになってきました。

〔定年退職後の夫婦関係〕

 私たち夫婦は子どもには恵まれなかったのですが、2人で楽しく過ごしてきました。でも、長野に戻ってからはケンカをするようになりました。熟年離婚という言葉をよく聞きますが、定年後の生活のあり方というのは、夫婦の大きなテーマだと感じました。
 これまで、何不自由なく生活させてくれたので、私は夫に対する不満など一切持っていませんでした。それが、夫に対して“怒らない人がなんでこんなに怒るようになったの?”“こんな人だったっけ?”“うるさいな”と思うようになったのです。
 定年退職してから夫は、電気や水道を小まめに切ったり止めたりするようになりました。今までそんなことをしたことがないだけに、私は「そこまでしなくても」と言いました。夫は「お前は何も変わっていない。稼いでいる時とちっとも変わらん」と言います。長野に引っ越してきてからは、私は以前のようにデパートに行くこともなくなりましたし、そんなに着る服を買いに行くこともなくなり、十分変わったと思っていたのに、どうしてそんなことを言うのかと思いました。
 義父が亡くなるまでの4年間は3人で生活をしていたということもあり、私は家にいることが少し苦になっていたところがありました。買い物の帰り道、丘に立つ家を眺めながら“あぁこんなに新しい家があるのに、帰りたくない”と思うときもありました。

〔夫を理解するようになったきっかけ〕

 今回の料理教室を開いて、参加されたみなさんに喜ばれたこと、そして人を見つめるという考え方のお話を聞いたりすることで、夫を見つめるといいますか、どうしてそういう行動をしているのか、どうしてそういう風に言うのかという意味を考えたり、理解するようになりました。
 電気や水道を小まめに切ることは、年金生活になって今までよりも収入が少なくなるので、夫なりに努力している節約方法だと分かりました。実際に夫が意識するようになってからは、料金が1割ぐらい節約できていることが数字に出ていました。
 また、世の奥さんにとっては、定年後の生活の中で一番嫌なのが、ご主人が一日中家でゴロゴロしていることだと聞きますが、私の夫はそれを知ってか知らずか、日中は家にいることがなく、ほとんど畑に出ています。畑仕事は好きでやっているのではなく、「暇だからやっている」と言いますが、生活のためでもあり、私を気遣っているのかなと思うようにもなりました。
 何でも思うことを口にする私に対して夫は時々怒ることがありますが、よく見ていると、私が言ったことは忘れずにやってくれていました。朝からゴミ出しをしてくれるし、お風呂のお湯を沸かしてほしいと言えば、ちゃんとやってくれています。
 夫は夫で家のことや私のことを考えてやってくれているんだと少しずつ分かってきました。と同時に、お互いのことがまだまだ分かっていなかったと感じました。

〔夫に対する感謝の心〕

 母と電話をしていると、時々夫のことも話題になるのですが、母は「あんな旦那さんはほかにはいないよ。もっと感謝しなさい」とよく言われます。
 私は料理をしているときもそうですが、何より食べてくれた人が美味しいと言ってくれることが嬉しいですし、楽しみでもあります。夫はたまに「美味しい」と言ってくれるので、普段は口に出さなくても美味しいと思ってくれているのだと分かります。料理に手をかけること、料理を楽しむことは大事ですが、何よりもそれができる環境にあるのが幸せです。また、自然農法で作られた美味しい野菜が畑にあって、調理する直前に畑から採ってきて新鮮な状態で使えるのは、夫があってこそだとを改めて感じ、感謝するようになりました。おかげで最近は食材を最後まで使い切るようになりました。夫には「俺が大事に可愛がって育てているんだから、そんなの当然だ」と言われますが・・・。
 夫は家でも外でも性格は変わりませんし、人によく見られたいといった思いがなく、その点は私に比べて「我」や「執着」がないということに気づきました。私が今まで自由にさせてもらってワガママになっていたのかもしれません。ですから、私が素直になることが一番と気づきました。口ごたえがあまり良くないとか、言葉遣いがあまりよくないとか反省するようになりました。でも、なかなか直せなくて、口ゲンカをしてしまうときがあって夫を怒らせることがあるのですが、それが長く続くことがありません。一晩寝たら落ち着くのでありがたいです。
 近ごろは、以前のようなケンカをすることもなくなってきました。“夫の性格が柔らかくなって変わってきたからかな”と思ったこともありましたが、振り返ると、夫を理解し、感謝するようになった私の方が変わったからだと思っています。

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