地域における環境保全型農業の推進

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香川県  M・Tさん(65歳、男性)

〔環境保全を第一に掲げて〕

 私は現在、サツマイモ、ニンジン、ダイコン、ミカンを約2町歩の土地を使って自然農法で栽培しています。また、JAの組合員と市農業委員の役も担わせていただいています。
 今、日本の農業を取り巻く環境は、高齢化、後継者問題、農業従事者の減少、農薬問題等々、本当に厳しい状況に置かれています。
 市でも同じことが問題になっています。市の農業委員会で一番の問題は、農業従事者減少や農業従事者の高齢化のために生じる耕作放棄地の問題です。放棄が拡がれば食料の供給だけでなく、国土や環境の保全など多面的機能での影響が考えられます。
 私が入っている市の農業委員会では、委員が中心になって、農地のパトロールと戸別訪問を行い、耕作放棄地の有無や見回り、各農家に農業を続けるかどうか、丹念に意向を聞き取り、引き受け手を斡旋したり、耕作してもらうよう話をしています。
 また農業を続ける思いはあっても、担い手不足に悩んでいる農家に対しては、委員会が県の事業の海外研修生の受入れを推奨しています。
 私のところでも7年前からインドネシアや中国などから研修生を受け入れてきました。研修生には、農業技術の習得のみならず、自然農法は環境と調和のとれた持続的な農業であること、そして、生産された農産物は大変おいしく、人々の心身の健康に不可欠な食料であることを実感してもらいたいと願い、一緒に汗をかいています。
 近年、連作に伴う土壌消毒や農薬などの使用による地力の低下や、害虫が農薬への抵抗力を強める現象が確認されるようになってきました。このことは農地の生産力の維持増進に不可欠な土づくりができていないことが影響しているのではないかと思います。
 先月、3年間の研修を終えた中国人のC君は、「パパ(私の事)の作ったサツマイモは、ほかよりおいしい」と自然農法と慣行農法の違いを実感し、中国でも自然農法をやっていきたいと張り切って帰国しました。
 また、研修生の受け入れのために、たびたび現地に面談に行くことがあります。今年は、ラオスと中国に行ってきました。少し余談になりますが、中国で驚いたのは、人口が多いので人力に大きく依存した農業をやっていたことです。例えば動力噴霧機を使わず、肩掛けの手動で濃い濃度の農薬を散布していました。本当にこんなものを口に入れているのかと思うと、言葉も出ませんでした。
 化学肥料や農薬の使い過ぎは人体への影響にとどまらず、土壌や河川などの環境汚染につながりかねません。

〔自然農法実施のきっかけ〕

 私と自然農法との出合いは昭和42年でした。母から、ある日、「農薬や化学肥料を使わない農法がある」と言われました。しかし当時20歳の私は、“そんなことできるわけはない。農薬を使わないで作物ができるものか”と信じることはできませんでした。しかし、母の話に何か魅力を感じていました。
 ちょうどそのころ、近所で若い農家が2名農薬中毒で亡くなるという事故が起き、そのことが転機となって、“これからの農業は自然農法でなくてはいけない”との思いが膨らみ、翌43年から1反を自然農法に切り替えて、サツマイモ、ニンジンの栽培を始めました。
 最初は苦労の連続で、特に土づくりは大変苦労しました。化学肥料を使わず、草質堆肥のみで栽培した時には、金時ニンジンの紅色がなく、黄色のニンジンができてしまったことがありました。
 しかし、試行錯誤しながら続けていく中で、鮮やかな紅色の、甘味のある金時ニンジンができるようになりました。それを同じ地域に住んでいる市長さんやK病院の理事長さんにも食べていただき、「自然農法のものはおいしいね」と言われたことは一生忘れられません。

〔経営の成り立つ農業を目指す〕

 また、昭和57年に初めて静岡県伊豆の国市のMOA大仁農場に行ったことがきっかけとなり、以後大仁農場とも連携しながら経営の成り立つ農業を目指し、サツマイモ、金時ニンジンの栽培技術の向上に取り組んできました。市からも評価していただき、11年前に「認定農業士」*1の資格をいただきました。
 そして、「坂出金時(サツマイモ)」と「金時ニンジン」は全国に流通されるまでになり、そのお蔭で一つのブランドとして認知されるまでになりました。
 平成17年夏、「食育基本法」が制定されましたが、私たち農家も、この「地産地消」の運動を通して、各家庭の食生活が改善されていくことを願っています。
 先日も地元のスーパーのバイヤーが家に来られました。ニンジンやサツマイモを出荷してほしいとの要請でした。
 市の元塩田地帯を活用して生まれたサツマイモとニンジンを、地元の方に食べていただき、健康になってもらうのが自然農法を実施する一人として一番の喜びです。
 また私は、この大切な自然農法を推進していけるよう、行政をはじめ政治家などのみなさんとも連携しながら、自然農法の農家を増やしていきたいと思います。そのためにも、食育活動を推進し自然農法・自然食に理解ある消費者の輪の拡大に取り組んでいきたいと思います。
 岡山にいる私の息子も35歳になります。数年の内には坂出に戻って、一緒に自然農法をしようと話し合っています。
 「同じ農業をするのなら、楽しくやろう」という考えで、今後も自然農法を通してみなさんの健康と幸福の増進のお手伝いができればと思います。

*1 認定農業士=自らも農業のプロとして優れた農業経営を営む傍ら、地域の農業振興のリーダーとして農業後継者の育成や農村地域活動を積極的にしている農業者で、市町長の推薦のもと、知事から認定された35歳から65歳までの農業者。香川県内では平成21年度の農業士は133名、青年農業士は33名が活動している。

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