「こころの教育相談員」の取り組み

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兵庫県  H・Hさん(63歳、女性)

〔校長先生からの依頼〕

 平成8年からU中学校へのお花のいけこみを長女が始めました。平成11年からは、MOA健康生活ネットワークで一緒に活動しているYさんにも加わっていただきました。平成16年8月、長女が結婚することになり、代わって私がYさんと、いけこみをするようになりました。
 平成17年5月のことです。突然校長室に呼ばれました。そして校長先生から「美術関係のことを、子どもたちにしていただけないか」と、相談がありました。
 私たちが日ごろ、盆点前や光輪花クラブ(花の活動)に取り組んでいることをお伝えし、そのようなことでよければお手伝いできるのではないかと、お答えしました。
 すると校長先生からは、「是非やってほしい」と言われました。兵庫県では、中学生の変化、学校全体の変化改善を願いとした新しい試みとして「こころの教育相談員」を配置することになり、A市からはU中学校がモデル校に指定され、私とYさんは教育相談員として関わっていくことになりました。

〔中学校でのお花やお茶の活動〕

 平成17年5月10日より相談員の活動が始まりました。活動は週に1回で、朝8時30分までに学校へ行き、授業の間の休憩時間に計3回行ないます。
 事前に特別な打合せはなく、私たちの自主性を尊重して運営しても良いとのことでした。使用する抹茶とお菓子を始め、お花も自然農法で栽培したものを使用しました。
 私たちは子どもたちを迎え入れる心の準備として、美術活動を取り上げた冊子「人・花・心」に載っている「花をいけるにあたって『先ず狙いをつけておいて、スッと切ってスッとさす』『事務室の隅に書斎の机に一輪の花がいかに一種清新の潤いを覚えしむるかはここに言う必要は無い。(中略)このように人間のいるところ必ず花ありというような社会になれば現在の地獄的様相を相当緩和する力となろう』」を毎回読むようにしました。
 相談室には、毎回10~15人が訪れてくれます。生徒たちは花をいけ、そして、抹茶を飲むという簡単なことですが、一人ひとり豊かな表情に溢れていました。学校の授業や家庭の状況を話してくれたり、例えば「おばあちゃんが昨日どうした」などと勝手に喋ってくれます。出されるお茶菓子をご飯と言い違えて「今日のご飯は何?」と言って入ってくる生徒、毎時間顔を出す生徒も出てきました。

〔生徒を見つめる中でわかる変化〕

 訪れた生徒には、備えつけのノートに必ず感想を書いてもらうようにしています。終了後、ノートに目を通しますが、先生も見られて、普段では気づかないような内容もあるようで、「この子がこんなことを書いている」と驚かれていることがあります。
 私は生徒が話す言葉に必要以上のアドバイスをせず、花とふれあう姿、お茶を楽しむ姿など、できるだけ生徒の表情を観察することを心がけています。
 人数が少ない時は、“この子はどんな子なのか”“普段と変わりないかな”と、一人ひとりを丁寧に見つめることをします。次第に、生徒に何かあった時は、その動作や表情から分かるようになってきました。“今日は、ちょっとあの子の雰囲気が違うな”とか、“いつも2人で来るのに、今日は別々に来ているな”と気づくこともあり、生徒の様子について気づいたことや変化を感じたことは、些細な内容でも学校に報告するようにしています。
 校長先生も「教室では目立たない生徒が、相談室ではこんなに元気にお花をしている」とか、「(相談室に来る生徒はだいたい仲間同士で来るのに)いつも一人で来る生徒がいる。なぜだろうか?」と、一緒になって生徒を見つめるように努力してくださっています。

〔学校全体への拡がり〕

 生徒ばかりではなく、先生も来られます。保健室の先生は、相談ごとや体の調子が悪いと言っては、保健室に多くの生徒が訪れているそうで、「そういう子が日に何回も来るんや、私の方が疲れるわ」と話されることもあり、「ここに来ると癒されるわ」と、楽しみにしておられます。
 U中学校も、少子化の影響で毎年、生徒数が少なくなっているのが現実で、そのため、学年が上がっても組み替えがなく、また教師側も少ない人数で複数の教科を担当せざるを得ず、心に余裕が持てないとのことです。
 そんな中でのお花、お茶の活動は、生徒はもちろんのこと先生方の癒しの場になってきたと、つくづく大切に思えるようになりました。
 U中学校の「こころの教育相談員」にはもう一人、カウンセラーとして県から先生がこられるのですが、最初のころ、カウンセラーの先生が上司の先生と来られました。カウンセラーの先生は大変な緊張ぶりでしたが、お花をいけて、お茶をいただかれると「心からリラックスできました」と、喜んでくださいました。
 新任の校長先生、教頭先生に替わられた時には、教育委員会から激励に来られ、お茶をふるまったりもします。また、卒業式、運動会など、学校の主な行事には、私たち二人が招待を受けます。今では、授業の中で、自然の材料を使ってのお菓子作りの実習も依頼されるようになりました。
 平成19年度より受け入れ時間が年間50時間増え、270時間が「こころの教育相談員」の時間として組み込まれるまでになりました。

〔地域への恩返しを願って〕

 病気で働けなくなった夫と小さな子ども3人を抱え、働くところもなく途方にくれる日々でした。MOAと出合い、知人の紹介で就職もでき、以来25年間一人で働き生計をたてることができました。MOA健康生活ネットワークの先輩たち、知人、親戚の支えの中で、明るく前向きに生かされてきたことを実感しています。
 その生かされてきたことへの感謝が、子どもが私の手を離れたら、社会のために何か役立つことをさせてほしいという願いとなり、花のいけこみなどに繋がっていったように思います。校長先生から「こころの教育相談員」の話があったとき、“ああ、こういうことで自分はお役に立たせていただけるのかなー”という心からの喜びがありました。
 相談室では、癒しのお花やお茶をしていますが、生徒たちが将来、いつか思い出してくれて、心豊かで感動のできる人になってほしいと願い、また各家庭に拡がっていけばいいなと願っております。
 日々の気持ちを大切にしていきたいと。こうして半年、一年と触れ合うことで生徒たちのよき成長に、陰ながら関わっていきたいという気持ちです。

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