静岡県伊豆の国市
「医療としての食」について紹介
9月13日、MOA大仁農場で、MOA自然農法の調査・研究のために米国より来日中のスティーブン・チェン医師と、カリフォルニア州における有機農業のパイオニアであるトム・ウイリー氏の講演会が行われた。
今回の来日は、カリフォルニア州アラメダ郡医療センターにおいて行われているRecipe4Health(レシピ・フォー・ヘルス、以下R4H)プログラムの最高医療責任者であるチェン医師が、かねてより親交のあったウイリー氏を通じてMOAハワイ療院につながり、MOA自然農法の実際をはじめ、食と健康に関するさまざまな面での視察が実現したもの。
「医療としての食」をテーマに講演したチェン医師は、自身が進めるR4Hについて紹介。医療、フードシステム、農業を組み合わせて、特に慢性疾患の患者に対する治療、予防を行っていることを具体的に語った。

米国では、10 人に 6 人の成人が慢性疾患を抱えており、その原因には質の悪い食習慣や運動不足が関連していることから、その改善・予防のために取り組まれているのが「医療としての食」であると語り、国民の健康と食生活の関係を重視し、国民が公平に健康的な食事にアクセスできるよう、国民の生活環境と関連する産業を改善していくための重要なアプローチがR4Hであると解説。
2023年以降は、米国保健福祉省の予算をもって行政が中心となり、有機農業実施者やコミュニティと連携しながら、医療費や食費に困窮している貧困層の人たちにも平等に健康的な食を提供し、また患者グループを形成し、ヘルスコーチングや栄養指導、ソーシャルコネクション、運動などの機会を創出しながら、医学の面だけでなく社会的な面をも含めて、総合的に人々の健康づくりに取り組んでいることを紹介。有機農業を軸とした持続可能な農業を拡大することで環境保全に資することも願っていると訴えた。
ウイリー氏は「カリフォルニア州のオーガニック」と題して、同州の地理的および気候的な環境条件、1万3000年前に同地に人が定住するようになってからの農業との関係、さらには同地における有機農業の歴史を踏まえつつ、現状と課題について詳しく言及。

自らが農業の道に歩むようになった理由や、ブドウ栽培に尽力する中で土壌学に興味を持ち、その知識のもとに同州の地質について解説。ブドウ栽培から野菜栽培へと方向転換したきっかけと、荒地を開拓して野菜栽培を成功させるまでの営みについて語った。
その中で、毎年多くの化学肥料と害虫駆除の薬品を投入しなければならないことへの不安が高まっていた頃にJ・I・ロデールの進める有機農業に出会い、強く傾倒していったことを紹介。
土壌学の学びを有機農業の土づくりと結びつけながら研究を重ねてきた歩み、さらに土壌微生物や植物の生育に欠かせない炭素と地球環境に関する研究内容についても詳細に説明した。環境保全型農業が地球温暖化防止に果たす役割に触れ、さらなる技術開発が必要であると訴えた。
9月7日に来日した一行は、20日までの滞在期間中、4日間にわたり、MOA大仁農場でMOA自然農法の歴史と定義、ガイドラインや認証のあり方、さまざまな研究、普及や教育に関する実際について、担当者からのヒアリングや質疑応答を繰り返しながら詳細に調査を行った。

静岡県三島市や埼玉県上里町のMOA自然農法実施農家を視察したほか、奥熱海療院(伊豆の国市)や東京療院(東京都港区)では、医師や医療関係者と懇談。奥熱海療院では、園芸療法や音楽療法などの健康法を、東京療院では、岡田式健康法としての岡田式浄化療法の施術、美術文化法としてのお花や茶の湯、隣接する(一財)MOA健康科学センターの研究員からの健康度測定など、さまざまなMOAの取り組みを体験した。
MOA美術館では、MOAインターナショナルの中島宏平理事長、MOA美術館の内田篤呉館長と懇談。美術品の鑑賞をはじめ、茶室での茶の湯の体験などを通して日本文化に理解を深めた。
今回の視察を通して、チェン医師らは、国や社会と連携したMOA大仁農場の営みに感銘するとともに、各所での食事を通して、MOA自然農法の農作物のおいしさを実感。今よりももっと多くの人がこの食事を享受できるようになることへの期待を語り、日本を後にした。
共催/(公財)農業・環境・健康研究所、(一社)MOA自然農法文化事業団
【プロフィル】
◯ スティーブン・チェン
スタンフォード大学およびスタンフォード医学部をファイ・ベータ・カッパ会員として卒業。UCSFサンフランシスコ総合病院でレジデント研修を修了。認定家庭医療医。アリゾナ大学アンドリュー・ワイル統合医療センターでフェローシップ研修。カリフォルニア・ヘルスケア財団リーダーシップ・プログラムによるリーダーシップ研修。UCLA-HMI医師医療鍼灸プログラムによる鍼灸研修。オステオパシー手技療法の上級研修を修了。現在、カリフォルニア州アラメダ郡医療センターのRecipe4Health(レシピ・フォー・ヘルス/健康のためのレシピ)の最高医療責任者。
◯ トム・ウイリー
T&D Willey Farmsを1981年から2016年まで経営。1987年にカリフォルニア有機農家認証協会(CCOF)の認証を取得。スローフード・アメリカの中央バレー地区代表、エコロジカル・ファーミング協会、有機農家認証協会、コーヌコピア研究所(オーガニック食品・農業の健全性と透明性を守るための調査・研究・情報提供)などの理事や政策顧問として、農業の公正さと持続可能性について活動している。






