名勝神仙郷で第2回神仙郷・ガーデンセミナー

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神奈川県箱根町
本中眞所長が神仙郷の本質について語る

箱根町強羅の名勝神仙郷の日光殿で「第2回神仙郷・ガーデンセミナー」が7月20日に開催され、日本の文化財や景観研究の第一人者で、名勝「神仙郷」保存活用委員の一人である本中眞(独)国立文化財機構奈良文化財研究所所長が「近・現代の日本庭園と神仙郷」をテーマに講演。会場には、神仙郷や日本庭園に関心を持つ150人余が集まりました。

 

 

本中所長は、文化庁がまとめた「近代の庭園・公園等に関する調査研究報告書」に基づき、近代の日本庭園の特質についての区分が「芸術家・学者等の庭園」「皇室の庭園」など10項目に渡ることを紹介。また、その特質の評価を行う際の視点として1.「当初の構成要素を継承し、作庭後における重要な変遷の経過を示している」、2.「庭園史上における時代的特質を表し、それらの資料が残されている」、3.「地域性の観点から特質を示している」の3つを紹介しました。

 

 

近代庭園の具体例として、京都市の岡崎・南禅寺地域に所在し、明治期の代表的作庭家である7代小川治兵衛(おがわじへえ)が手掛けた名勝・平安神宮神苑や名勝・無鄰庵(むりんあん)庭園、名勝・對龍山荘(たいりゅうさんそう)庭園などを列挙。共通の特徴として東山を借景とし、人工水路の琵琶湖疎水を引き込んで滝や池などに活用していることを挙げました。

 

続いて、江戸時代末期から昭和初期にかけ、青森県津軽地方を中心に広がった庭園様式・大石武学(おおいしぶがく)流による庭園として、名勝・清藤氏書院庭園、名勝・金平成園(かねひらなりえん)、名勝・瑞楽園、名勝・盛美園を紹介。さらに、近代から現代にかけて活躍した作庭家・重森三玲(しげもりみれい)による、京都府京都市の名勝・東福寺本坊庭園、大阪府岸和田市の名勝・岸和田城庭園(八陣の庭)を取り上げた他、近・現代の庭園の数々を紹介しました。

 

 

講演のまとめとして神仙郷に言及。箱根強羅の独特な立地条件を最大限に生かした庭園であり、縦横に巡らされた園路の随所で変化に富んだ風景を望む、独特の景観構成を持つという特徴を確認しました。さらに、前述した文化庁の特質区分に照らすと、岡田茂吉という文化人の作品であることから「芸術家・学者等の庭園」に属し、箱根美術館の存在から「公共施設・公開施設・学校・会社・工場等の庭園」に該当することを解説しました。

 

評価の視点からは1.「作庭当初の地形・風物・建物といった構成要素がそのまま保たれ、残された文献通りに再現されつつあり、重要な変遷の経過を示している」、2.「庭外の風景の展望が大きく捉えられ、芝に覆われた傾斜面や広場などが設けられ、近・現代の庭園に共通する時代的特質を表している」、3.「箱根に固有の火山地形などが最大限に生かされ、地域性の観点からも特質を表している」として、3つの評価点を満たすことを伝えました。

 

最後に、神仙郷の本質は、公園のように「開かれた庭園」を作り、万人に幸せを感じてほしいという岡田茂吉の願いにあり、それは神仙郷の随所に表れていると強調。「岡田茂吉さんのお気持ちが訪れる人にしっかりと伝わり、分かってもらうための活動が大切」と訴え、神仙郷の運営関係者だけでなく、地域全体のまちづくりに関わる人たちにも理解が広がり、来訪者に神仙郷の本質が伝わっていくことを願い、講演を結びました。

 

本中所長の力強い訴えに感銘した聴講者の中からは「神仙郷がより多くの人に知られ、本質が理解されていくために、自分に何ができるかを考えていきたい」といった声が聞かれました。

 

次回のセミナーは10月12日、名勝「神仙郷」保存活用委員の一人で、日本の近代建築史や近代住宅史の研究家である内田青藏神奈川大学特任教授が講演する予定。

 

主催/名勝神仙郷活用実行委員会、共催/箱根美術館、後援/箱根町教育委員会

 

 

 

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