第24回 医療における宗教の重要性2〜信仰は遺伝する!

(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志

前回は、人から祈られると治療の経過が良かったという論文を見た時の驚きと、その後の研究では結局その事実をはっきりとは証明できなかったお話をしました。今回は、信仰は遺伝する事実についてお話しします。

 

米国の名門大学の一つであるデューク大学には、医療と宗教に関する研究で世界的に有名なハロルド・コーニック教授がおられ、宗教・スピリチュアリティと健康に関するサマーセミナーが毎年行われています。私も2010年に参加しました。日本語でも難しい内容を早口の英語でまくしたてられるので、話の半分も理解できませんでしたが、信仰は遺伝すると聞いた時には衝撃を受けました。遺伝はしないと思い込んでいたからです。

 

1.信仰はどのように遺伝するのか?

信仰が遺伝することを裏付ける研究は、実はいくつもあるのです。その一つを紹介しましょう(Soc Cogn Affect Neurosci 2013;8:209-15)。脳内に存在するドーパミンは、運動調節や意欲・学習などに関係することが知られています。神経の末端から放出されたドーパミンは、別の細胞のドーパミン受容体と結合することで、情報が伝わります。

 


ドーパミン受容体にはいくつかの種類があるのですが、信仰を促すドーパミン受容体A(仮名)を持つ人は、その人の親などが信仰を持っていると、本人も信仰を持つことが多かったのです。ところが、ドーパミン受容体Aを持つ人でも親などが信仰を持っていないと、本人が信仰を持つことは少なかったのです。一方A以外のドーパミン受容体を持つ人では、親などが信仰を持っていても本人が信仰を持つ傾向は弱かったのです。つまり、信仰を持ちやすい傾向になるためには、遺伝(ドーパミン受容体Aを持つ)と環境(親などが信仰を持っている)の両方が必要なのです(図1)。

 

この遺伝子は、男性により強く影響するとの報告もあります。他にも信仰を促す遺伝子がいくつか見つかっています。理屈では説明できないスピリチュアルな体験をした時に、それをきっかけに信仰に目覚める人もいれば、そのままやり過ごす人もいます。人によって受け止め方が異なるのは、そういう理由もあるのでしょう。

 

有名な宗教家の家庭に生まれた私の友人は、父親から「信仰は遺伝しない」と言われたそうです。これは遺伝の意味が異なる話で、たとえ親が立場のある人でも、子ども自身に神仏と特別な繋がりはないのだから、信仰を継承するのなら自分で努力しなさいという意味だと理解しました。

 

2.信仰を持ったほうが良いのか?

遺伝学の考えからすれば、信仰を促す遺伝子を持つ人は、環境への適応や生存に有利だったので、その遺伝子は途絶えることなく代々伝わってきた可能性があります。

 

それでは実際に、信仰を持つことにはどんな利点があるのでしょうか。

 

インターネットなどで検索すると、信仰する理由、そしてあの世があると信じる理由として、1.困難に直面した時、信仰が心の支えとなり、乗り越える力となる。2.共同体意識や帰属意識を育み、連帯感が深まる。3.死に対する恐怖を和らげ、人生に意味を与える役割を果たす。4.愛する人を亡くした時、その人があの世で幸せにしていると信じることで悲しみを乗り越えられる。5.善徳を積むことで、死後の世界で良い報いを受けると信じられる。6.人生の目的意識を高め、より前向きな気持ちで生きられる、などと書いてあります。どれもその通りだと思います。

 

だれが言ったのかは忘れたのですが、あの世は存在すると信じたほうが良い。なぜなら、あの世はないと思って好き勝手に生きた人は、あの世があったら死後に大変な目にあって後悔する。一方、あの世はあると信じる人は、たとえあの世はなくても死後に自分の存在自体がないのだから、喜びも後悔もしないと(図2)。私はこの考えが好きです。

 

信仰を持つことの利点は、こうした観念的・心理的な理由だけではありません。実は私たちの健康に大きく影響するのです。次回は、信仰は健康にどのように、そしてどのくらい影響するのかをお話しします。お楽しみに。

 

【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。

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