(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志
私たちはさまざまな種類の痛みに苦しめられますが、西洋医学で体の痛みはかなりコントロールできるようになりました。ただ手術後の痛みに対して、ボタンを押すと自動的に痛み止めが注射されるよりも、たとえ偽の薬でも医師や看護師が来て注射してくれたほうが痛みは取れることが、さまざまな研究で明らかとなっています(図1)。医療現場での人のぬくもりの大切さが分かります。
日常生活でも人の絆は重要です。幸せな人のそばにいると幸せになる可能性が高くなることが研究でも裏付けられており、幸せは友達の友達の友達にまで広がるそうです(図2)。幸せを共有できるコミュニティに属していることが、私たちを幸せに導くのですね。
「私の人生はどんな意味があったのだろうか?」「生きていくのがつらい」「死んだらどうなるのか怖い」といった、いわゆるスピリチュアルペインに対しては、西洋医学は無力です。昔は宗教家がそのような悩みを聞いてくれましたが、今は臨終の前にお坊さんが枕元に来たら、嫌がる人が多いでしょう。そこで今は、宗教の枠を超えた臨床宗教師がそういう役割を担っています。
ただ実際には、そういう悩みも医師に相談したいという人が多いのです。でも医師は、大学でも実際の医療現場でも、そのための訓練は受けていません。私も、そういう悩みに適切に答えられるとは思えません。超高齢社会で死は日常的な出来事となっていくのに、多くの人は病院で死を迎えるので、死は私たちの日常生活から切り離されています。それだけに、だれが死の悩みを引き受けるのかが問題となっています。
年齢にかかわらず、自分の死を受け入れて心穏やかに時を過ごす人もいれば、このままでは死にきれないと頑張る人もいます。どちらの生き方が良いとかではなく、それぞれの人生観なのだと思います。京都大学の広井良典教授が、臨終を「どこで」「どのように」過ごすかよりも、「誰と」過ごすかが重要だと述べておられるように、最期は親しい人との和解だけでなく、自分自身とも和解して旅立つことが大切だと思うのです。その意味でも、親しい人からのケアはますます重要となっています。
最期を看取る人(たち)にとってもつらい日々となるので、それを支えるコミュニティの存在は不可欠です。その意味から、全人的な健康法である岡田式健康法によって結ばれたMOA会員同士の絆は、私が今までお目にかかった多くの方たちにとって心の寄りどころとなっています。
私が岡田式浄化療法を受けて感じるのは、施術者に対する感謝とともに、人の力を超えたいわゆる「大いなるもの」に癒されている安らぎです。人が手をかざすだけのように見えますが、本コラム15で述べたように、脳波などには間違いなくリラックス効果が現れます。それに、わざわざ時間を使って自分のために施術をしてくれるのは、何よりの思いやりです。この感覚は、西洋医学や他の健康法とは異なる独特のものです。MOAがケアの重要性を強調し、スピリチュアルな健康までも視野に入れているのは、こうした背景があるからだと思います。施術で症状が良くなってほしいと願うとともに、この「大いなるもの」との出会いや思いやりの感覚も大切にしたいものです。
人のぬくもりによって互いにケアしケアされ、しかもスピリチュアルな健康までも支えあえる関係が築けたとしたら、それは私たちが健康で幸せな人生を送る上で不可欠のものとなるでしょう。MOA健康生活ネットワークは、そうしたコミュニティになることは間違いありません。
ところで、(一社)MOAインターナショナルと(一財)MOA健康科学センターは、タイの文部省および衛生省と、2024年7月と10月に、それぞれ協力協定を締結しました。これは画期的なことであり、次回はそこに至った経緯とその意義についてお話しします。お楽しみに。
【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。