(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志
花は日常気軽に楽しめる美の一つであり、岡田式健康法の美術文化法でもいけ花は特に人気があります。人類ははるか昔から花を愛してきたので、私たちが花に癒されるのは当然だと思いがちです。そのためか、花の香りの研究はありますが、花自体の効果を調べた研究はほとんどありません。
さまざまな芸術療法は、私たちの心を癒すとともに、創造力を高め自己実現への道を開くことを目的としており、音楽や絵画、ダンス等による効果は研究が進んでいます。花も、心がもっと癒され、創造力がさらに高まる楽しみ方があるかもしれません。そこで(一財)MOA健康科学センター業務執行理事の内田誠也主任研究員が中心となって、いけ花の基本である「自分で花をいけて楽しむ」時の効果を調べることにしたのです。
1.「花をいける」効果をどのように評価するのか
この研究には、51名(女性34名)にご協力いただきました。研究方法として、「花をいけて楽しむ」効果を調べるためには、「他人がいけた花を見る」時の効果と比較する必要があります。そこで、5分間「花の写真を見た時」「他人がいけた花を見た時」「自分でいけた花を見た時」の体と心の変化を比較しました(図1)。
花のいけ方については、全国の療院などで行われている方法を用いました。ただし花の香りの効果を除くために、10種類以上の香りのない花を用意し、その中から自分で一輪選び、それを好きなように花瓶にいけてもらいました。気に入らない時は、満足するまでくり返し、その後でそれを鑑賞してもらいました。
研究方法としてもう一つ重要なことは、その変化をどんな方法で評価するかです。内田主任研究員は、心拍数の変動を用いて自律神経系の状態を評価するとともに、筋硬度計を用いて両肩の硬さを調べました。さらに癒しの程度を評価する質問票に答えてもらいました。
2.「自分で花をいける」のは本当に効果が高いのか
私を含めて多くの方が想像するように、やはり自分がいけた花を鑑賞した時が最も副交感神経が活発となりました。つまり一番リラックス効果があったのです。肩のコリも柔らかくなりました。癒しの質問票でも、自分でいけた花を鑑賞した時に最も癒されたと答えています(図2)。
興味深いのは、写真よりも他人のいけた花を鑑賞した時の方が癒されたと多くの人が答えたのですが、自律神経系や肩のコリの変化に大きな差はありませんでした。癒されたと感じても、身体的・客観的にはそれほど癒されていなかったということでしょう。詳しい内容を知りたい方は、(一財)MOA健康科学センター研究報告集(2020;24:43-50)に転載した論文(原著は日本心身医学会誌『心身医学』(2020;60:7:617-625)に掲載)をご参照ください。
3.なぜ「自分で花をいけて楽しむ」と癒し効果が高いのか
肩のコリに関しては、自分で花をいける時に多少手や腕を動かしますが、今までの研究によれば、その程度の運動で肩は柔らかくならないようです。自律神経系の活動を重ね合わせると、「自分で花をいけて楽しむ」のが最も効果的なのは、ほぼ間違いないでしょう。ではなぜ「他人がいけた花を鑑賞」する場合と、それほどの差が生じるのでしょうか。
医師で音楽家でもある某先生は、ご自身で花をいけたあとで、次のように話されました。「楽器でも絵画でも、自分が満足できるレベルに達するのにかなりの練習がいる。ところが花は、それ自体が美しいので、初心者でも自分が満足できる作品になる。自分がこれほど簡単に満足し、癒されるとは思わなかった。」
私はこの感想が、「自分で花をいけて楽しむ」ことの意義を的確に表現していると思います。自分の好きな花を選び、好きなように花を切って花瓶にいけ、それを見た時に、花の美しさと出来上がった作品の美しさに感動するとともに、それを創作した自分に満足し、癒されるのでしょう。
次回は統合医療についてお話しします。統合医療とは何なのでしょうか。どんな病気にどんな効果があるのでしょうか。どうぞお楽しみに。
【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。