(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志
米国立補完代替医療センター(NCCAM。現在はNCCIH・国立補完統合衛生センター)は、1980年代から2000年代に、エネルギー療法にかなりの研究費を投入しました。西洋医学の研究費から見ればわずかですが、有名大学でもエネルギー療法を研究し出したのです。当時、病院などでエネルギー療法が広まったので、その効果を見極めたかったのだと思います。おかげでエネルギー療法の研究は格段に進歩し、一部の看護師さんたちは自主的に各種エネルギー療法の施術資格を取り、患者さんに施術するようになりました。
岡田式健康法の一つである岡田式浄化療法も、エネルギー療法の一つです。
残念ながら、生体エネルギーの存在自体はまだ証明できず、今のところ、施術を受けた生体に起きる変化などの間接的な証明にとどまっています。それでも、以下に述べるような興味深い結果が得られています。
1.エネルギー療法の効果をどのように証明するのか
Consciousness & Healing Initiative(意識と癒しの先駆け)は、エネルギー療法の国際的な研究グループであり、(一財)MOA健康科学センターはこのグループとも連携しながら研究を進めています。
薬の効果を証明するためには、本人には本物の薬か「にせ」の薬か伝えずにどちらかを飲んでもらい、その後の変化を見る方法が一番確実だとされています(ランダム化比較試験)。そこで海外では、役者に施術のまねをさせて、「にせ」と本当の施術の違いを調べる方法をよく用います。以下に紹介する結果は、すべてこの方法を用いています。
2.エネルギー療法は「にせ」の施術よりもさまざまな効果がある
米国のがん治療の権威として知られるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターから、最近発表された興味深い論文を紹介します。実験的にがん細胞を植え付けたマウス20匹に対して、10匹には有名なヒーラーが施術し、残りの10匹には研究者がヒーラーをまねて「施術」しました。
2週間後にがん組織を調べたところ、本物のヒーラーの施術を受けたマウスのがんは死んだ細胞や瀕死の細胞が多く、周囲には免疫細胞が多数集まっていたそうです(図1、Integrat Cancer Therapies 2020)。本物のヒーラーから施術を受けたのかどうかは、マウスたちには分からないでしょうから、この差は施術によって生じたと言えます。
エネルギー療法に関する66の論文をまとめて解析した信頼性の高い論文によれば、本当の施術は「にせ」の施術に比べてさまざまな痛みを和らげる効果に優れ、認知症に伴う異常行動を減らし、入院患者の痛みや不安を軽減させました(図2、Int J Behav Med 2010)。他にも、がん患者のうつや疲労感を和らげ、免疫機能を改善させたなどの報告があります(Brain Behav and Immun 2010、Cancer 2012)。
3.エネルギー療法の研究は何を目指すのか
このような論文がある一方で、施術の効果に否定的な論文も多いのです(Cochrane Database of Systematic Reviews 2015など)。生体エネルギー自体が証明できない以上、エネルギー療法の効果は単なる精神的な思い込みによるものだという批判に、真正面から反論できないのです。より進んだ科学の出現が待たれます。
ただエネルギー療法の多くは、その効果を信じる人たちの伝統的・宗教的な信条に基づいており、本来は病気の治療だけでなく、精神的・スピリチュアルな健康を目指すことが多いのです。ですから、精神的な効果を省いて病気に対する治療効果だけを証明しようとする西洋医学的な手法は、エネルギー療法の研究には不向きです。新しい研究方法の開発が望まれます。
エネルギー療法の効果を信じない人が多い一方で、その効果を過信して、本来受けるべき治療を受けたがらない人もおられます。私は医者としての前半生は西洋医学の研究をし、後半生はエネルギー療法の研究をしました。その経験からすると、現代医学はエネルギー療法などが持つ精神的・スピリチュアルな癒やしを取り入れるべきだと思います。
そしてエネルギー療法を信じる人たちには、現時点での客観的な施術の効果を知った上で、状況に応じて西洋医学の治療を受けてほしいと願っています。それによってお互いが分かり合い、統合医療の先にある真の健康を目指す新しい医学が生まれると考えています。
次回は美術文化法についてお話しします。美しいものを見ると心が和みますが、その効果はどこまで科学的に証明されているのでしょうか。どうぞお楽しみに。
【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。