第23回 医療における宗教の重要性1〜祈りの効果

(一財)MOA健康科学センター理事長
鈴木 清志

世界中、特に米国から、宗教と医療に関する論文がたくさん報告されています。その中には、思わず「それ、本当?」と目を疑うような内容もあって、興味は尽きません。なぜ米国で宗教に関する研究が多いのかと言えば、さまざまな宗教を信じる人たちがおり、中にはユニークな教義を忠実に実行する人たちがいて、その人たちが一般人と比べて健康的かどうか、治療する際にどんな配慮が必要かなどは、極めて重要な問題だからだと思います。

 

1.人から祈られると治療の経過が良い?


私が心臓病の専門病院に勤務していた頃、今回紹介する祈りの効果に関する論文と出会いました(Arch Intern Med 1999;159:2273-78)。心臓病の集中治療室に入院した患者さんを2つの群に分けて、片方には通常の医学的治療だけ、もう片方には通常の治療に加えて、見知らぬ人がその患者さんのために祈りました(図1)。

 

患者さんたちは病気も年齢も重症度も異なるので、公平を期すために、入院番号だけをもとにどちらの群になるかを決めました。そして祈りを捧げる5人一組のチームには、事務員が患者さんの名前だけ(「きよし」など)を伝えました。患者さんは自分が祈られているかどうかを知らず、研究者も祈る人たちも患者さんを直接知らないので、プラセボ効果を無視できる、二重盲検法と呼ばれる信頼性の高い研究方法です。

 

祈りを捧げるチームは、それぞれが個別に4週間、名前しか知らない患者さんのために「合併症がなく速やかに回復されますように」と祈りました。その結果、祈ってもらった患者さんたちは、通常の医療だけの患者さんたちと比べて、入院期間などには差がなかったものの、入院中の合併症が少なかったのです。私はこの結果に驚嘆しました。さらに調べると、以前にも同様の研究があり(South Med J 1988;81:826-829)、その際も見知らぬ人から祈られた患者さんは必要な薬の量などが有意に少なかったのです。

 

患者さんの中には、奇跡的に良くなる人もいれば、どんどん重症化する人もいます。ひょっとしてこんなことが影響するのかもしれないと思い、宗教の意義を改めて考えるようになりました。その後間もなく病院を退職してMOAの診療所で働くようになったので、私にとって特に忘れられない論文です。

 

2.祈りの効果の真実は?

祈りの効果に関して、その後何度か同様の研究が行われましたが、目の前で祈られる場合はともかく、本人に知らせずに行う祈りには治療効果はなかったとの報告が多いのです。よく考えると、これらの研究には大きな穴があります。何だか分かりますか?

 

それは、家族や友人などが患者さんに対して、どのくらい祈ったかを調べていない点です。他人よりもずっと真剣に、しかも一日に何度も祈るでしょうから、それを無視するのはいかにもバランスを欠いています。でもそれは、家族や友人からの祈りの量や質を測定するのが難しいからでしょう。家族や友人に、研究のためだから患者の回復を日に何回祈ってくれとか、決して患者の回復を祈らないようになどと頼むのは、いかにも変な話です(図2)。

 

患者さんが信仰者か無信仰者かで分けた場合は、信仰者のほうが一般的に経過が良いのです。患者さんに家族がいるかどうかで分けたとしても、一人暮らしのほうが経過が良くないことが分かっています。このことは、また改めて紹介します。要するに、どんな方法を使っても、科学的な測定が難しいのです。むしろ、家族は患者のために祈るのが当たり前という前提で、こうした研究を計画したのかもしれません。

 

結局、見知らぬ人からの祈りが病気を改善するかどうかは、よく分からないというのが事実だと思います。ちなみに私の経験では、家族などが頻回に面会に来られる患者さんは経過が良く、心臓病の手術の前後に岡田式浄化療法を頻回に受けた患者さんは、必要な薬の量が少なかった印象があります。それをきちんと研究できなかったのが心残りです。

 

 

【プロフィール】
すずき きよし
1981年千葉大学医学部卒。医学博士。榊原記念病院小児科副部長、成城診療所勤務、(医)玉川会MOA高輪クリニック・東京療院療院長などを経て、(一財)MOA健康科学センター理事長、東京療院名誉院長。(一社)日本統合医療学会理事・国際委員会委員長。94年日本小児循環器学会よりYoung Investigator’s Awardを授与された。

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