沖縄県 C・Tさん(58歳、女性)
〔学校で手に負えない生徒をわが家で預かる〕
私は、市内の中学校で10年以上にわたり「心の教室相談員」の委嘱を受け、学校と相談しながら不登校をはじめ様々な問題を抱えている生徒と、茶の湯やいけばな体験などを通して、心を通わす営みを継続してきました。
平成23年11月から3年生二人の女生徒を預かることになりました。彼女たちは校内で暴力をふるい、警察沙汰を起こし、先生方は授業も満足にできないため、ストレスが溜まっているような状態でした。
状況を見兼ねて、「私でよければ、週に2回、この子たちを預かってもよろしいですよ」とお伝えし、校長先生の承諾と生徒指導の先生、3学年を担当しておられる先生方の了解を得て、預かることになりました。期間は、翌年3月の卒業を控えて、1月からは学校で勉強する必要があるという先生方の判断で、平成23年11月から2ヶ月間ということでした。私は月曜日と金曜日は学校にいきますので、二人を預かるのは火曜日と木曜日としました。二人が来れば「たとえ1時間でも登校日数として承諾しますよ」ということになりました。
先生は「Cさん、この子たちはね、感謝する心、感動することを知らないのよ」と言われました。私は「そんなことはかまいませんよ」と答えました。そして、“子どもたちに、社会のルールや礼儀を、身をもってわかってほしい”と願っていましたので、「少しでもこの子たちが変わることがあればいいなと思っています」とお伝えしました。
〔高校に合格する〕
場所は「お任せします」ということで、「ひまわり」と呼んでいる畑に一緒に行ったり、わが家で茶の湯やいけばな体験を行いました。また統合医療を進めている沖縄療院に行き、茶の湯やいけばな体験をしました。さらに、教育委員会への花のいけこみボランティアに、一緒についてきてもらいました。
先生の言うことは聞かない子どもたちですが、茶の湯をやるときは、きちんと正座をして、作法も全部覚えてしまいます。初めは他人行儀だった二人も、次第に打ち解けてきて、言葉や服装なども変わってきました。
どんどん変わっていく様子を先生方にも見ていただきたいと思い、「ひまわり」畑での作業風景を見学してもらいました。先生は「まさかあの子たちが、鎌を持って草取りをあんなに一生懸命やるなんて思わなかった」と、驚いておられました。
この子たちは10人のグループでしたが、預かった二人は、その後グループから離れることができ、高校受験では10人中、預かった二人が合格しました。きっと頑張ったんだと思います。先生方もびっくりしておられました。合格が決まって、本人から「受かったよ」と、すぐ電話ありました。「おめでとう、受かったからには最後まで頑張ってよ」と声をかけました。
卒業式に、「ありがとうございました」と言われて、親子から花束をプレゼントされました。私は「何かあれば、またお電話してくださいね」「学校にも、お抹茶を飲みにいらしてください」と、お伝えしました。
〔子どもだけでなく親も先生も悩んでいる〕
これまで多くの生徒や保護者に接してきて、実に様々な状況がありました。学校に行かないだけでなく、化粧をしたり、タバコを吸ったり、深夜に出歩いたり、驚かされることも少なくありませんでした。しかし、それらの行為は、悪い部分ばかりを取り上げ、決めつけてしまう大人への反発のようにも思えました。みんな本当は心の優しい子どもたちばかりなのです。
そして多くの場合、厳しい家庭環境を抱えています。父子・母子家庭であったり、若年出産や子沢山で、自分は中学生だけど、今もって1歳、2歳のきょうだいがいる子どもたちも多いのです。愛情をかけられていない、親に相手にしてもらえない寂しさを子どもたちは持っているのです。
母親である私たちがしっかりと子どもたちを包み込まないといけないと思います。しかし、今の世の中を見ていると、親のわがままで子どもたちが苦しんでいるように感じてなりません。
私は、親も先生も子どもたちの話を聞いてあげる心の余裕をなくしてしまっていると思うのです。そのような親や先生も、また苦しんでいるのだと思います。
子どもとの心の交流が“茶の湯やいけばな体験、また畑の作業を通して、変わっていく1つのきっかけになる”と思って取り組んでいます。さらに親が変わっていかなければ根本的な解決にはなりませんので、こうした取り組みから、親が子どもの変化に気づき、そこから“親も変わってもらいたい”と願っています。
〔生徒と行うお茶会の願い〕
平成24年1月4日には、昨年に続いて中学校の全職員を対象に新年のお茶会を行いました。参加された先生は、すさんだ現代社会において、茶の湯やいけばな体験には心を癒す力があると、実感されたようです。
生徒に対しても昨年に続いて、今年は3年生7クラス、2年生3クラスで、お茶会を行うことが決まりました。担当しておられる家庭科のK先生は、「高校受験を控えた3年生に“頑張れ”という激励と、作法の中から相手を思いやる心や感謝の心を学んでほしい」と強く願われていました。
私はその依頼を受けて美術文化インストラクターのYさんやWさんに協力いただいて準備を進めました。私たちは、このお茶会に何を願っているか、生徒たちに実際に感じてほしい、学んでほしいことなどを話し合いました。そして、生徒を迎えるにあたって“誠を込めて、一人ひとりを受入れる心を大切にする”こと、生徒たちには“お茶を通して茶碗やお菓子、作法などの日本文化に触れるなかで、美意識に目覚め、人を思いやる心を育んでもらいたい”という思いで、次代を担う生徒たちの心身の健康を願い、学校施設でお茶会を行うことにしました。
〔お茶会の様子と先生方の声〕
2月21日から23日の3日間、家庭科教室を会場に立礼席をもうけて、クラスごとに生徒たちを受け入れました。お茶をいただく前に、担当のK先生から挨拶がありました。その後、ボランティアの方から、茶の湯における「一期一会」について解説し、一連の作法について説明し、それから実際にお茶を楽しんでもらいました。生徒たちは、初めてのことへの戸惑いや、照れくささもあったようですが、真剣に取り組んでくれ、終わってから、喜んでいる様子や「感動した」という声を多く聞くことができました。
生徒からの茶の湯を体験した感想文には、次のようなものがありました。「お茶碗でおいしく飲めました。この貴重な体験ありがとうございました」、「人に対する礼儀作法や思いやりの心を学べたので良い体験ができました」、「人の前では失礼なことをしないようにすることなどの心づかいが勉強になりました」、「素晴らしい和の文化にふれることができ、感動しました」などと書いてありました。
担当のK先生は「このような体験は、普段の学校の勉強では得ることのできない礼儀作法や思いやりの心を学ぶことができたようです。集中して相手の話を聞く姿勢、真剣に取り組む集中力にはとても感動しました」と、言われました。また、校長先生も様子を見に来てくださいました。校長先生は「ボランティアのみなさんが説明してくださった、一期一会の精神や茶の湯に込められた思いやりや感謝の心の意味の話が素晴らしかった。是非学校にも貼りだしたい」とおっしゃって、茶の湯に込められた心の教育の意義を痛感されたようでした。
〔学校の健康増進セミナーの対象を市民に拡げる〕
私は先生方や保護者のみなさんの心身の健康を願い、平成20年7月から、授業参観日に合わせて、学校内のクラブハウスで「健康増進セミナー」を開催し、岡田式健康法を紹介してきました。こうした営みを通して、先生方や多くの保護者が心身の健康を損ねておられることを知りました。
また昨年(平成23年)3月の東日本大震災の被害状況を伺って、私たちに何かできることはないだろうかと考え、支援金やお花のサークル花器を送りました。さらにボランティア仲間と話し合っているうちに、私たちの周囲でも何かできることがあるのではないかということになり、地域の方々が健康な生活を送っていただくことを願い、7月にU市の市民を対象に公共施設で「健康増進セミナー」を開催しました。行ってみて、大勢の市民のみなさんが、健康に関心を持っておられることがわかりました。
そこで、O中学校で進めている「健康増進セミナー」も保護者だけでなく、参加者の層を市民全体に広げていきたいと願い、校長先生やクラブハウスの管理部署であるO市教育委員会の生涯学習課に報告し、11月より月1回実施しています。
平成24年3月には、市の教育委員会の指導主事からお電話をいただき、「不登校などに悩んでおられる親子を対象に茶の湯といけばな体験をしていただけませんか」と依頼がありました。参加者の募集は教育委員会が呼びかけていくそうです。
やってきた一つひとつの積み重ねが、全てつながってきて、教育委員会や学校、さらに先生方や保護者のみなさん、市民へと理解と協力の輪が拡がっていく手応えを感じます。