静岡県 Y・Sさん(38歳、女性)
〔長男のクラスでお茶とお花をすることになって〕
私は、小学3年生の長男と幼稚園児の長女を持つ、2児の母です。
長男の小学校では、毎年3年生の総合学習の時間に、地域の特産であるお茶について、種類や飲み方、生産製造方法など、いろいろな角度から1学期間勉強しています。
平成20年6月20日、息子が学校から帰ってきて、学校で盆(ぼん)点前(てまえ)(お盆の上で簡略に行う茶道のお点前)をやってほしいと言ってきました。
事情を聴くと、授業で抹茶の話になった時、息子が「うちのお母さん、抹茶たてられるよ」と先生に言うと、ぜひやってもらえないかということでした。
わが家では、毎月1回、地域の方々と一緒に、お花やお茶を楽しんでいて、子どもたちも学校や幼稚園が休みの時は、一緒にお花をいけたり、お菓子、お茶のお運びを手伝ってくれていましたので、普段から抹茶を点(た)てているところを見ていたため、自然に先生に話せたのだと思います。
早速、先生に連絡し、夏休みも近くて学校行事もあるため、早急に行うことになりました。日ごろから子どもの育成を一緒になって取り組んでいる子ども会のみなさんに協力を頼み、7月3日に決まりました。
当初は、学校の教室で行うことになっていましたが、担任の先生が校長先生に許可を得るために話をしたところ、とても良いことなので、お茶であれば和室の方がいいと言ってくださり、学校の近くの公民館を借りてくださいました。
子ども会のみなさんと6月29日に打ち合わせを行い、願いをはっきりさせて思いを一つにしようと話し合い、「お茶の体験を通して、子どもたちが、楽しみながら、心身ともに健康な生活を送るきっかけにしたい」と目的を決め、進めていくことになりました。
〔全員が楽しそうに体験する〕
当日は、2クラスで42人が体験しました。お茶の体験にあたって、自然食を扱っているMOA直営の製茶工場の方が、子どもたちのために抹茶を挽く石臼(いしうす)を借りてきてくれました。
まず、お抹茶の原料となるてん茶の栽培から抹茶ができるまでの話をしていただき、実際に石臼を挽いてもらいました。子どもたちは、はじめて見る石臼に興味津津(きょうみしんしん)でした。
次に、花を飾って、お茶を楽しんでもらうよう、先生にまず一本いけてもらい、それを中心に子どもたちにいけてもらいました。
そして、盆点前のデモンストレーションをし、代表で先生2人にお茶を飲んでもらいました。子どもたちも真剣に見入って、茶道の作法の一つである袱紗(ふくさ)さばきが不思議だと言っていました。
その後、3人で一組を作ってもらい、お茶を飲む人、点てる人、お菓子を運ぶ人と、交替で全員が体験できるようにしました。初めて茶の湯を体験する子がほとんどで、お客の作法や茶筅(ちゃせん)を使ってお茶を点てたり、緊張しながらも楽しそうに体験していました。先生も、日ごろの子どもたちからは、想像できないくらいお行儀よく座っている姿に驚いていました。また、途中で校長先生や公民館の職員の方も見に来られ、子どもたちの様子に感心しておられました。
〔身近なところから美による情操教育を進めることを目標に〕
後日、児童一人ひとりの手紙を本にまとめたものをいただきました。「お母さんに抹茶のたてかたを教えたいです」「抹茶は苦かったけど、おいしかったです」「おうちでもやりたいです」等、感謝の言葉や楽しかったことがたくさん書いてあり、涙が出るほど感激しました。
先生からも「子どもたちも喜んでいますが、親ごさんたちもとてもよい学習ができたと何人もの方からお手紙をいただきました。またお願いしたいです」と、連絡をもらいました。
7月8日には授業参観会があり、懇談会の中で担任の先生から保護者の方々に、素晴らしい体験学習ができたとお話ししてくださいました。ほかのお母さん方は、なぜそのようなことができるのかと、疑問に思う方が多くいらしゃいましたので、私は、MOA美術館を紹介させていただくとともに、MOA美術文化インストラクターの資格を持っていて、MOA美術文化財団(現:岡田茂吉美術文化財団)が進める「美による情操教育の理念」に基づいて、ボランティアとして活動していることを少しですが説明すると、みなさん納得されていました。
一人の方は、「幼稚園の時に毎月お茶のお稽古をやっていたけれど、子どもがまたお茶を習いたいと言っているのよ。ありがとう」と、言ってくださいました。
今回のことは、本当に思いもよらない出来事でした。お世話させていただいた私たちも、楽しくなごやかな雰囲気で過ごすことができ、準備など大変でしたが良い経験ができたと思います。協力してくれたみなさんに心から感謝しています。
最近では、ほとんどの子どもが習いごとをしていますが、いけばなやお茶は、大人の習い事のイメージがあり、子どもたちが習うということはあまり無いようです。しかし、今回のお母さんたちの反応からも、子どもに礼儀作法を習わせたいと思っている方も多くいらっしゃるのではないかと思いました。
情操教育、美術教育の面からも、子どもたちとお花やお茶のサークルなどを行うことの必要性を強く感じ、美術文化インストラクターの資格を生かして、そうした活動をさせていただきたいとの思いを強くしました。これからの自分の目標ができたことを、とても嬉しく思っています。