奈良県 A・Eさん(68歳、女性)
〔お花を通して子どもたちへのボランティアをはじめる〕
私は長年、市役所に勤務してきましたが、その間、多くの方々と親しくさせていただき、友人にも恵まれました。
また、私はお茶やお花が好きで、MOA美術文化財団(現:岡田茂吉美術文化財団)のインストラクターとして、光輪花クラブといういけばな教室も行ってきました。
平成12年に定年退職したのを機会に、近所に住んでいるSさんの友だちで、わが家で行っている光輪花クラブに一緒に通っておられたK先生に、子どもたちを対象にお花のサークルができるかどうか相談してみました。
K先生が校長先生の許可を得て、平成13年に小学校4年生26名にお花のサークルを行いました。ペットボトルを利用して花器を作り、一輪のお花をいけてもらいました。K先生は子どもたちの様子を写真に撮って、終了後に書いた感想文を冊子にして送ってくださいました。
子どもたちの感想文には「ありがとう」「楽しかった」ということや、「牛乳パックでこんな花器ができてびっくりした」「いけた花をみんなで見て、喜び合いました」「家でいけたら家族が喜んでくれた、うれしかった」など、素直な感想が書かれてありました。サークルをさせていただいて本当に良かったと思いました。
子どもたちがこんなに喜んでくれるのであれば、続けていこうとK先生と話し合っていましたが、その直後にK先生が転勤されたことや私自身が体調を崩したこともあり、続けて進めることはできなくなりました。
〔A幼稚園でお花のサークルを行う〕
市内には公立幼稚園が現在5ヶ所ありますが、いじめや不登校など、子どもたちの心を脅かす状況が深刻化していることをニュースなどで知るたびに、すべての幼稚園で茶の湯やお花のサークルを園児にしてもらうようなことはできないだろうかと考えるようになりました。その理由は小さい時から美の環境にふれて育ってほしいという願いと、幼稚園の先生に知り合いも多く、理解していただけるのではないかという思いからでした。
体調が回復した平成18年になって、心安くしていた方が園長をされていたA幼稚園を訪問し、お花のサークルや茶の湯をさせていただくようお願いしてみました。園長は「それは大事なことだから、やってください」と言われ、2月28日に園児12名にお花のサークルを行いました。
空き缶に和紙を巻いて花器を作り、お花を一輪いけるというものでした。いけ終わってから、園児に「お花の水をしっかり替えてあげてくださいね」、また「お花さんきれいだねとか、ただいまとか、いってきますと、声をかけてくださいね」と話しました。後日、先生が確認すると「その通りにしているよ」と園児から返事が返ってきたと伺いました。
さらに楽しそうにいける園児たちの様子をみておられた先生方から、自分たちに教えてほしいと要望されて、3月28日に先生方を対象にお花のサークルと茶の湯を行いました。小さな花器に、一輪の花を愛でていけるという体験をしてもらいました。茶の湯(盆点前)は、美術文化インストラクターのMさんに手本を示してもらい、その後先生方に交替でやっていただきました。お花のサークルも茶の湯も、幼児教育に効果が期待できるとのことで、さらに実際にやっていただいて、大変喜ばれました。
平成19年には茶の湯を年長、年少の園児20名にさせていただきました。最初にお手本としてお運び役とお客役をして、「お運びはこうですよ。お茶碗はこうして持って行って、ここで座って、お茶を差し出す時は『どうぞ』と声をかけるのですよ」とか、「お客さんの人はここに座ってください」と一つ一つ説明してはじめました。一つのグループをお運び役とお客役と半分ずつに分かれてもらい、年長さんに簡単なお点前を勉強していただき、年長さんの協力を得て、年少さんが実践するという内容で行いました。学んだばかりの年長さんが、年少さんの園児たちにお点前やお運びができるよう、優しくアドバイスをしている姿がとてもほほえましく感じました。
〔茶の湯やお花のサークルが市内の公立幼稚園に拡大する〕
平成20年は、B幼稚園とC幼稚園を訪問し、園児に茶の湯を体験してもらいました。
B幼稚園の園長はご主人が市の職員で、私が市役所に勤めていたころからの知り合いです。C幼稚園の園長はA幼稚園におられた先生が園長になっておられ、9月の行事の中でお花のサークルをお願いしたいと言われ、保護者会の役員の方々を対象に花器づくりのデモンストレーションをさせていただきました。おかげで、保護者会の役員が中心となって下準備が進み、当日の運営もしていただいて、お花のサークルを行いました。
平成21年も、B幼稚園とC幼稚園で2月に茶の湯を行いました。4月に人事異動があり、C幼稚園の園長がD幼稚園の園長として転勤されたことから、D幼稚園でも茶の湯をしてほしいと依頼され、平成22年は、2月に3ヶ所の幼稚園で茶の湯を行いました。D幼稚園の先生方は正座することや、挨拶をきちんとすることが園児にとって大切ではないかという思いから、お花よりもお茶を選択されたようです。
また、A幼稚園がE幼稚園と統合し、4月の人事異動で、C幼稚園の園長が、新たに赴任されたことで、ここでも茶の湯やお花のサークルを来年度は依頼したいとのことでした。
こうして市内の公立幼稚園5ヶ所のうち3ヶ所で茶の湯やお花のサークルを行うようになりました。今では茶の湯やお花のサークルを幼稚園の年間行事に入れてくださっています。
〔幼稚園での茶の湯の内容〕
幼稚園で行う茶の湯やお花のサークルは、Mインストラクターをはじめ光輪花クラブの受講生3名とご近所の友人Uさんにも協力していただいて、その時の状況に応じて必要な人数でボランティアを行います。
D幼稚園の時は、園長から「先生方でお手伝いさせていただくので、3名でお願いします」と依頼され、年長組1クラス26名に行いました。
はじめにMさんにお点前をしていただきました。私は茶道具の名前を紙に大きく印刷して説明しました。園児たちは、茶筅の音やお湯を注ぐ音、黒い茶碗の中で緑色の抹茶が出来上がっていくところなど、身を乗り出し、目を輝かせて、お点前をみてくれます。
次に園児は、お運び役とお客役とに分かれます。初めに私たちで手本を示して、お運び役はお菓子やお茶を運ぶ時は、相手の幸せを願って「お菓子をどうぞ」「お茶をどうぞ」と言葉をかけ、お客役は手をついて「ありがとう」と答えるようにアドバイスしました。その後に園児たちに実際に行ってもらいました。
私は2回目の時の説明は、クイズ形式にして「これは何に使いますか?」とか、「これは何という名前ですか?」とか「お茶の色は何色でしたか?」などと簡単な質問を出しますが、茶道具の名前を覚えている園児がかなりいて、先生方は驚かれていました。
子どもたちになかなか体験することのできない行儀よく座るということや、相手をもてなし感謝の気持ちを表すということを茶の湯の体験を通して学び、家庭生活においても少しでも活かされればと願っています。
〔幼稚園から家庭や地域へ拡がる〕
先日、D幼稚園の園長にお聞きしましたら、子どもたちは、お茶を出すときに「どうぞ」と声をかけることや、「ありがとう」と感謝の言葉を返すという体験が強く印象に残っており、保護者の方も、日常的に触れることがなかった日本の文化に触れることができたことに喜びを感じておられたとのことでした。
子どもたちと道で会った時には「おばちゃん、また、お茶会しようね」、「お花をしようね」と言ってくれたり、小学校にお花のいけこみに行った時に、幼稚園で体験をした子どもたちが、興味津々といった表情で見てくれます。
また、保護者の方からも体験したいと言われたり、道で会った時には「この間はありがとうございました。子どもがすごく喜んで、家でもお花をいけてくれました」などと、お礼の言葉をかけられます。
平成22年12月には、地域の子ども会の会長をされていた方から依頼されて、公民館を会場に子ども会に参加している親子と一緒に、お茶会とお花のサークルとして、クリスマス用の花器づくりと一輪の花をいける体験を楽しみました。
私たちがお花やお茶のボランティアをさせていただくことで、園児の家庭、そして地域に拡がっていることにやりがいを感じます。子どもたちがお茶やお花にふれる時の楽しそうな笑顔は、私にはかけがえのない宝であり、喜びとなっています。