広島県広島市 2025.05.09
ケアとコミュニティーがこれからの医療の希望に
4月12日、広島市で「ケアとしての医療」を考えるシンポジウムが開催され、医療・介護の専門家や市民ら約400人が参加しました(ライブ配信による視聴を含む)。
橋本聖子参院議員のビデオメッセージ、講演と報告(文末に要旨を掲載)に続き、パネルディスカッション(座長・津谷隆史(医財)愛和会広島クリニック院長)が行われました。
パネルディスカッションでは「ケアの本質は人と人とのつながりにある」との共通認識のもと(医財)玉川会MOA新高輪クリニックの片村宏院長は、現在の医療の限界と地域コミュニティーでのケアの重要性を強調。地域共生社会の実現拠点施設・いくらの郷(さと)の坂本昭文所長は安心できる雰囲気づくりと強制しない姿勢の重要性を、介護福祉サービスを展開する(株)コスモケア・エナジーの堀島由利社長は、80歳になった今もやりたいことが次々に出てくるのでチャレンジを重ねていきたいと、笑顔で語りました。
閉会に当たり津谷院長は、社会全体の健康が個人のさらなる健康を生むとし、参加者一人一人に、支え合う社会の実現に貢献していこうと呼び掛け、シンポジウムは幕を閉じました。
医療や介護、福祉の現場だけでなく、地域コミュニティーで行われる日常的なケアが、人の健康度を大きく左右します。MOAは、治る力、生きる力をも呼び覚ます「ケアとしての医療」と、それを支えるコミュニティーの力について多くの方と共に考え、行動していきたいと願っており、今回のシンポジウムはその先駆けとなるものでした。
聴講者からは、次のような声が寄せられました。
「キュア(治療)からケアへの移行の重要性を以前から感じていた。患者自身の治癒力を引き出すためには、食事や運動といった生活習慣の改善、精神的なケアが不可欠。治療の主体は患者自身、医師はあくまでケアとサポート役であり、ケアとしての医療が当たり前になっていかなくては」(医師)
「看護師時代に、医療者が心身をすり減らしながら何とか踏ん張っている姿をたくさん見てきた。誰かをケアすることで自分もケアされるという循環が、ケアを受ける患者さんにとっても、心底生きる力になっていくのだと改めて思った。片村医師が語っていたように、これが本来の医療の姿になっていけば、皆が自分の体の治る力を信じつつ健康に向かい、もっと自分を好きになり、幸せになれるのでは」(セラピスト、元看護師)
「認知症の方と接していると、思いが伝わらず心が折れそうになる時もたくさんある。医療はもちろん大切だが、それだけでは補えないものがある。ケアを大事にする考え方が広がっていけば、多くの人が良い方向に向かうと思った」(介護職)
講演/医療モデルと社会モデルの一体化による「共助モデル」について
片村宏(医財)玉川会MOA新高輪クリニック院長
日本の医療の質や技術は高いものの患者の満足度は低く、その理由は医師をはじめとするスタッフの対応や、十分に時間を取って話を聞いてもらえないなど、精神的なケアの不足にある。健康には個人の行動、社会環境が大きく影響しているが、医療機関だけでの対応と個人のセルフケアには限りがある。そこにコミュニティーとケアが大きな役割を果たす。
統合医療の医療モデルと社会モデルの認定施設である東京療院では、岡田式健康法(食事法、美術文化法、浄化療法)を提供している。療院の活動を支えているボランティアの人々は、自分の住む地域のMOA健康生活ネットワークでも、地域住民と共に健康法を実践し、地域全体のケア力も向上している。
幸せや健康は人から人へ広がっていくという研究結果があり、ケアによって人は互いに成長していくともいわれている。ケアし合うコミュニティーでは病気が減り、QOL(生活の質)向上、医療費抑制、出生率向上、健康寿命延伸、犯罪・自殺率の低下、就学・就業率の向上、経済成長などにつながっている事実もある。人と人がつながり、そこで行われるケアは健康長寿社会実現のために不可欠な要素。
ハイテク技術に頼らず、種々の方法を組み合わせて治療効果とQOLの向上を目指す医療モデル。コミュニティーで互いのセルフケアを支え、健康の社会的格差の是正を目指す社会モデル。これが一体化した「共助モデル」を社会に広めていきたい。
講演/地方創生、地域共生社会実現に向けた「いくらの郷(さと)」の報告
坂本昭文いくらの郷所長兼指導員、鳥取県南部町・前町長
町長時代の終盤に職員の休職をきっかけとして、医療や福祉の枠組みだけでは救われない若者の力になりたいとの思いが高まり、いくらの郷を設立。プレッシャーを感じさせないよう、就労支援や社会復帰といった明確な目標を掲げてはいない。家庭以外に安心して過ごせる居場所を提供し、草刈りなどの地域環境整備や野菜作りなどを通して地域住民との交流を図り、社会とのつながりを徐々に取り戻していけるよう支援している。
いくらの郷に職員は自分を含めて3人しかいないが、地域の人、コミュニティーの力でこのケアは成り立っている。いろいろな人と関わることで、少しずつ社会的な孤立から解放され、安心感と自信を得た若者たちは、自らの力で歩み出していく。その人たちがまた、ボランティアで現在の活動を支えてくれている。この事実からも、安心できる場所、自分の存在を認めてくれるコミュニティーの存在は何よりも重要である。
報告/ケアとしての介護・福祉を目指して
堀島由利(株)コスモケア・エナジー社長
松井光子(株)コスモケア・エナジーデイサービス管理者
コスモケア・エナジーは障がい児・者のデイサービス、介護と障がいの共生型サービス(介護認定を受けた65歳以上の高齢者と、18〜64歳までの障がい者が共に過ごす)、農福連携事業を柱にしている。畑作業や収穫体験など自然に触れる機会を大切にしつつ、花療法、リズム体操、ミュージックセラピー、ヨガなど、心と体の両方を健康にするプログラムを用意。昼食には、主にグリーンマーケットMOAで購入した旬の野菜や調味料などを用いた自然食を提供。ケア者である社員の心身の健康と、利用者の心に向き合う力を高めるため、広島療院と連携した社員研修にも力を入れている。
これまで提供してきたサービスの質の検証として(一財)MOA健康科学センターなどとの共同研究も行ってきた。その結果、花に触れてめでる、自然のエネルギーを通して人の体を流れるエネルギーを高める、体に良い食事を取ることなどが健康を生み出し、癒やしになっていくと分かってきた。
主催/「ケアとしての医療」を考えるシンポジウム実行委員会
後援/広島県、広島市、(一社)MOAインターナショナル、(医財)愛和会、(一財)MOA健康科学センター、(一社)MOA自然農法文化事業団