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「適応指導教室」でのお茶・お花の体験学習

2009.12.23

三重県  Y・Tさん(74歳、女性)

 

〔教育委員会からふれあい教室での体験学習を要請される〕

 平成5年にY市の施設を活用して「適応指導教室」が開設されることが新聞に報道されました。適応指導教室は市の教育委員会が長期欠席をしている不登校の小中学生を対象に学籍のある学校とは別に公的施設のスペースを教室として用意し、学習の援助を行いながら本籍校に復帰できることをめざして取り組まれます。ここに参加することは学校への出席として扱われます。
 新聞記事を見たMOA美術文化インストラクターのMさんが、自宅が施設に近いことから、何かお手伝いはできないかと美術に関わるボランティアを申し込まれ、お花のいけこみと花卉栽培のボランティアが同時に始まりました。その後、敷地内の畑で自然農法による野菜づくりが授業として取り入れられ、子どもたちの希望を受け入れてお花のサークルも授業に取り入れられるようになりました。
 平成17年4月から、同様の「適応指導教室」の施設がもう1ヶ所増設されることになりました。2つ目の教室に、市の教育委員会からの要請で、年間4回のお花と、3回のお茶の体験学習を2人の美術文化インストラクターで担当させてもらうことになり、私もその一人としてボランティアをするようになりました。
 私たちは美術文化活動を通して、支援のお手伝いをさせていただきたいとの気持ちで、一人ひとりの子どもたちと向き合ってきました。

 

〔お茶・お花の体験学習の様子〕

 お茶・お花の授業はできるだけ子どもだけでなく保護者の方と一緒にできるように、担当の先生が配慮してくださり、毎年保護者面談などの日に合わせて授業の日を設定してくださいます。当日は13時~15時の間、生徒5~6人、職員4~5人、保護者2~3人で進めています。
 お花のサークルは2人のインストラクターが担当しています。花器はわが家にあるものを持参しました。今は施設の教室においてあり、授業の時は先生が準備をしてくださいます。
 授業は、約1時間をかけて、花器やお花をじっくり選んでいけてもらいます。花の留め方など基本的な技術についてはその場で教えることで、後で応用が効いてきます。いけ終わった後は先生も生徒も保護者も参加者全員がスケッチをします。先生は一人ひとりを丁寧に見つめられておられ、お花や絵をご覧になりながら声をかけておられます。
 私たちは、その場でいけるだけでなく家庭で定着できることを願って取り組んでいます。いつでもどこでも花のある生活の素晴らしさを実感してもらいたいと思うからです。どんな植物でもいけることができるし、咲き終わった花が実になったり、ドライフラワーとしても楽しむことができることなどをお伝えし、実際にいけて並べたりしています。
 お茶は2人のインストラクターで担当しています。施設にある茶室を利用し、お客とおもてなしをする2つの班に別けて行います。裏方はインストラクターで準備します。抹茶を入れ、お湯を入れたところで、おもてなし班の参加者に渡します。参加者が茶筅でお茶を点て、ふくさを持ってお客に運びます。若者向きにカラフルなふくさを準備してお貸ししていますが、大変喜ばれています。客の班には、テーマや心づかいを理解し、それに感謝して、床の軸などを拝見し、またいただく時の作法など、必要最小限のお茶のルールを勉強しています。先生とは「社会に出てからも、困らない程度の勉強をしていきましょう」と確認しています。
 回数を積み上げていくうちに子どもたちに変化が出てきます。それまであまり話をしない子どもが、自分から話しかけてきたり、無表情だった子どもがニコニコして楽しそうに花や花器を選んでいる姿を見ると、心から良かったと思います。

 

〔子どもたちの巣立ち〕

 毎年春になると、復学できる子、高校に進学できる子、就職できる子など、6~7人が巣立っていきます。
 関わったどのお子さんも印象深く残っていますが、例えば平成17年に花サークルに参加した中学2年の男子生徒の中に、いつもバスで通って来る子がいて、ある時帰りのバス停で一緒になったので少しだけ話をしました。その次の教室の時、休んでいたので先生に訪ねてみましたら「今、期末テストを受けに学校へ行っており、今日が3日目の最終日なのです。どうしているだろう」と気づかっておられました。後でその生徒さんはそのまま復学できたことを伺いました。
 平成18年には中学2年生の女子2人が2~3回出席された後、復学ができました。
 しばらくした帰りのバスで乗り合わせましたが、お友だちと一緒だったので声をかけることは遠慮しましたが、後で先生が確認されたところ、次の年に2人とも高校へ進学できたそうです。また、この年に3年生の女子で高校進学ができた1人の子は「一生懸命アルバイトをしてお金を貯めて、全部自分で手続きしてニュージーランドへホームスティに行ってきました」と報告してくれたと、先生も驚いておられました。
 平成19年は男子が多くなりましたが、サークルもお茶も喜んで出席してくれましたし、親子と先生の面談に併せて、年に2回は親子で参加されました。

 

〔先生方と協力しあって〕

 今まで「別に」とか「いいや」としか言わなかった子どもたちが、体験学習では素直に、活き活きと取り組んでいる姿に、先生方も少しずつ、その効果を認めてこられたように思います。
 この年、「学校の裏の狭い空き地に花を育てたい」と先生から話がありました。先生から「その花をアレンジメントして子どもたちに家に持ち帰るようにしたい」と伺い、早速、培養土を使って子どもたちと一緒に体験実習として花の球根や株を植えました。草取りや水やりをしているうち少しずつ花も咲いてくれました。
 お茶に使う水は当日の朝、出勤時に湧き水をペットボトルに汲んできてくださるなど、いろいろな面で先生方と私たちと一体の活動になってきました。子どもたちの様子を見ながら次の年の進め方を相談し、サークルはフラワーセミナーに変えて、もっと花としっかり向きあっていくことにしました。
 20年度は、お茶を年3回とフラワーセミナーを毎月することが決まり、花卉栽培を熱心に取り組んでおられる3人のインストラクターのご協力もあって、大切に育てられた花を使うことができました。花のない季節には先生が実家の山でモクレンやサザンカ、センリョウ、ナンテン、茶の木、スイセンなどを取ってきてくださいました。
 先生が「お花は作品として残らないので自分のいけたお花を写生して残して上げたい」と言われ、花と描いた絵とを一緒に写真にとってくださいました。その写真を手渡される子どもたちも、みんな、満足そうに良い顔をして帰っていくのです。その姿を先生方も喜んで見ておられました。
 平成21年3月11日の卒業式には7人が卒業できて、その内6人の高校進学と1人の就職が決まったそうです。この日、心を込めてお祝いのお花をいけさせていただきました。
 卒業式の後、先生から「新年度もどうぞ宜しくお願い致します」とお話があり、今年も楽しく体験学習を進めることができました。
 来年1月には初釜としてのお茶会を行ないます。毎年、その時期に子どもたちの進学、就職などの情報のお話が聞けるので楽しみにしています。
 これからも一人でも多くの子どもたちが花の心、美の心に触れて、明るく美しく輝いて欲しいと願っています。